オスの縄張り争いでは、勝者ほど免疫力と脂肪の蓄積量が高いことが実験で示されています。アオハダトンボは、強い相手との縄張り争いに勝つこと自体が、良い配偶相手である証になっているのです。
アオハダトンボはカワトンボ科に属するトンボの一種で、ヨーロッパ、北アフリカ、西アジアにかけて分布しています。流れの速い清流周辺でよく見られ、IUCNのレッドリストでは軽度懸念に分類されています。
金属光沢を帯びた体と、年齢とともに色づく翅を持つこの種は、縄張りをめぐる駆け引きや、近縁種アオハダトンボ属同士の攻撃的な種間行動など、興味深い生態を数多く見せてくれます。
識別と外見
最も分かりやすい特徴は、オスの翅全体に広がる濃い藍色の色素沈着です。これは分布域にいる他のカワトンボ属の種に比べて、はるかに広い範囲に及びます。
体長は49〜54ミリメートルで、後翅の長さは31〜37ミリメートルです。体は細長く、側方に小さな半球状の複眼を持ち、二対の翅はほぼ同じ形をしています。翅には密な翅脈のネットワークが広がっています。
雌雄で色彩が大きく異なります。未成熟のオスは翅が褐色で、成熟するにつれて翅と体が金属的な青緑色に変わります。メスは翅が暗褐色の光沢を帯び、翅の先端近くに白い斑点(偽翅痣)があり、体は金属的な緑色で腹部の先端は銅色を帯びます。
よく似た種として同属のCalopteryx splendens(近縁種)が挙げられますが、本種のオスは翅の色づきがより広範囲に及ぶ点で区別できます。幼虫は細身の体に長い脚を持ち、腹部の鰓にある剛毛で見分けられます。
分布と生息地
アイスランド、イベリア半島南西部、バレアレス諸島、サルデーニャ島、シチリア島を除くヨーロッパのほぼ全域に分布し、北はホッキョク海沿岸まで、南はモロッコやアルジェリアにまで及びます。これはバンディッド・デモワゼルよりもはるかに北まで分布域が広がっていることを意味します。
主に低地の緩やかな流れの小〜中規模の河川や小川に生息し、標高980メートルほどまでが一般的ですが、アルプスなど一部地域では1,200メートルに達することもあります。水温が低めで、流れが穏やかから速めの、富栄養化していない水域を好みます。
幼虫は水生植物の茎や葉に頼って暮らし、流れの強い場所では植物にしがみつく必要があるため、裸地の川岸や滑らかな石の底にはほとんど見られません。酸素不足に非常に敏感で、堆積物や泥の多い水域は適した生息地にはなりません。
成虫は森林近くの開けた場所や、まれに大きな池の岸辺でも見られ、イラクサなどの背の高い草本植物を休息場所として利用します。観察記録は夏にかけて大きく増える傾向があり、季節的な活動の高まりがうかがえます。

行動と暮らし
オスは強い縄張り意識を持ち、水辺の植物や木に止まってメスを待ち伏せたり、通りかかる昆虫を追いかけたりします。縄張りの防衛は威嚇的なしぐさや翅を広げる行動が中心で、個体数が少ない時ほど攻撃性が高まり、競合するオスが多い場合はむしろ攻撃性が下がることが分かっています。
縄張りを持つオスは、水面に張り出した植物や岩の上から見張りを行い、「翅たたき」と呼ばれる、翅を素早く下げてからゆっくり持ち上げる行動を見せます。これは主にコミュニケーションのためと考えられていますが、胸部の換気や体温調節にも関わっている可能性があります。
成虫は4月末から9月末まで羽化し、特に5月下旬から6月下旬にかけて多く見られます。羽化したばかりの個体は翅が色づくまでの約10日間、生まれた場所付近の植生にとどまります。成虫としての寿命は約40〜50日です。
オスは1日中日当たりの良い場所にとどまり、中央ヨーロッパでは朝7時から9時頃に水辺に到着します。行動範囲は狭く、20〜100メートル程度しか移動しませんが、メスは1日に最大6キロメートルも飛行して適した産卵場所を探します。興味深いことに、近縁種との縄張り争いでは常にアオハダトンボが勝利することが報告されており、これが近縁種の翅の模様の進化に影響を与えた可能性も指摘されています。
狩りと食性
成虫は水辺や周辺の植生の上を飛び回りながら通りかかる昆虫を捕らえ、縄張りを巡回する合間にも狩りを行います。記録された餌動物にはユスリカ科の幼虫など小型の水生・陸生昆虫が多く含まれており、Corynoneura属に属する複数の種が目立ちます。
狩りは主に日中の暖かい時間帯に行われ、メスも産卵場所を探しながら合間に採餌することが知られています。獲物を探す範囲はオスの行動圏と重なり、縄張り内での待ち伏せ的な捕食が中心になると考えられます。
繁殖と生活史
求愛はオスがメスに向かって飛び、腹部末端の明るい色の部分を見せつける独特の飛行から始まります。メスが興味を示すと、オスはメスを産卵に適した場所へ導き、その周囲を一周してから、メスが着地するのを待って空中で静止します。
つがいは「交尾の輪」と呼ばれる体勢を作り、交尾は40秒から5分ほど続きます。交尾後、メスは数秒間腹部を下げて休み、その後オスに従って産卵場所へ向かいます。
産卵の際、メスは水生植物の茎に逆さまにしがみつき、産卵管で茎に卵をほぼ垂直に突き刺すように産みつけます。この間、水中に最大90分間も潜ることがあり、メスが産卵している間、オスは上方で他のオスからメスを守ります。
雌雄とも1日に複数回、数週間にわたって交尾を繰り返し、その生涯を終えます。卵は約14日で孵化し、幼虫は水中の植物やその根の間で2年ほどかけて成長し、10〜12段階の脱皮を経て成虫になります。
保全と脅威
IUCNはアオハダトンボを軽度懸念と評価していますが、これは種全体としての世界的な状況を示すものです。実際には生態的要求が非常に狭く、大都市や工業地帯には全く見られず、農業利用が盛んな地域でもまれにしか見られません。このためドイツの一部の州では絶滅危惧種とされ、オーストリアやスイスなど中央ヨーロッパの他の国々でも同様に危機的な状況にあります。
最大の脅威は、家庭排水や農業排水による水域の富栄養化です。これが藻類の大発生を招き、水中の酸素を減少させ、メスが産卵に受け入れる植生のタイプを変えてしまいます。また藻や泥の粒子が幼虫の鰓に詰まり、呼吸を妨げることも知られています。
逆に、汚染の少ない自然な水域であっても、セイヨウナツユキソウやイラクサ、ヒマラヤバルサムなどの繁茂や、川岸の樹木による閉鎖した樹冠が日照を遮り、生息に適さなくなることがあります。
文化的意義
Calopteryx virgo は、日本語で「アオハダトンボ」という名で親しまれています。この和名は、オスの体が青緑色に輝く様子に由来していると考えられており、見る人の印象に強く残る名前として定着しています。
豆知識
- 属名Calopteryxはギリシャ語の「美しい(kalós)」と「翅」に由来し、種小名の「virgo」はラテン語で「乙女」を意味し、体の繊細さを表しています。
- 幼虫は最終段階(F-0段階)で体長3.5〜4.6ミリメートル、体重約4ミリグラムほどしかなく、近縁種バンディッド・デモワゼルの幼虫よりもやや小さいです。
- 幼虫の体は平たくはなく、むしろ非常に細身で、流れに流された場合は体を伸ばして近くの植生や基質につかまります。
写真
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生態と分類
分類
- 門
- Arthropoda
- 綱
- Insecta
- 目
- Odonata
- 科
- Calopterygidae
- 属
- Calopteryx
- 種
- Calopteryx virgo
出典
- GBIF Species names and classification
- iNaturalist Photos
- Wikidata Common names and conservation status
- Wikipedia Summary extract
- Encyclopedia of Life Habitat, diet and behavior traits
- GloBI What it eats, what eats it, parasites and pollinators
- trophiCH



