「アオウミガメ」という名前は、甲羅の色ではなく、甲羅の下にある緑色の脂肪にちなんでいます。甲羅そのものはオリーブ色から黒色で、緑色をしているわけではありません。この脂肪の色は、海草だけを食べるという厳格な食性から生じるものです。
Chelonia mydas はウミガメ科 Cheloniidae に属する大型のウミガメで、Chelonia属で唯一の現生種です。熱帯・亜熱帯の海域全域に分布し、大西洋と太平洋にそれぞれ遺伝的に異なる個体群を持ち、インド洋にも生息しています。IUCNのレッドリストでは絶滅危惧種に指定されています。
数十年に及ぶ回遊、幼体期の浮遊生活から成体の海草地での定住まで、その生活史は海洋生態系の健全さと深く結びついており、読み解く価値のある存在です。
識別と外見
最も分かりやすい識別点は、短く鉤状にならない吻(くちばし)と、頭部背面にある一対の前額板、そして前肢に爪が1本しかないことです。近縁のタイマイ(hawksbill turtle)は吻がより鉤状で、前肢の爪が2本あるため、この点で区別できます。
成体の甲羅長は平均78〜112センチメートル、体重は68〜190キログラムほどです。体はやや扁平で、頭部は短い首の先につき、首を甲羅の中に引き込むことはできません。前肢は水中を泳ぐのに適したパドル状に発達しています。記録上は甲羅長153センチメートル、体重395キログラムに達する個体も確認されています。
色と模様は成長段階によって変化します。孵化直後の幼体はほぼ黒色の甲羅と明るい色の腹甲(プラストロン)を持ちますが、若い個体では甲羅が暗褐色からオリーブ色になり、成熟した個体では褐色一色、まだら模様、あるいは放射状の斑紋を示すようになります。腹甲は黄色を帯び、四肢は暗色の地に黄色の縁取りが入り、中央に大きな暗褐色の斑点が見られるのが特徴です。
雌雄の区別は成体になるとはっきりし、雄は甲羅の縁より長く伸びる尾と、前肢のより長い爪を持ちます。性別は卵の孵化温度によっても左右され、巣の温度が30度を超えると雌が多く生まれ、それより低いと雄が多く生まれます。
分布と生息地
分布域は熱帯から亜熱帯の海域全体に及び、大西洋個体群と東太平洋個体群という2つの遺伝的に異なる主要な集団に大きく分かれ、南米とアフリカの南端によって隔てられていると考えられています。生息が確認されている沿岸国は140か国を超え、80か国以上で産卵が記録されています。アメリカ大陸ではテキサスからマサチューセッツまでの大西洋岸、カリフォルニアからアラスカまでの太平洋岸で見られ、ハワイ諸島とフロリダに大きな個体群があります。世界的にはグレートバリアリーフとカリブ海に最大規模の個体群が知られています。
生息環境は浅く砂質の沿岸域に広がる海草地を中心とし、紅海のワジ(涸れ川)の三角州周辺のように、サンゴ礁が切れて砂地が現れる場所も好みます。沿岸の塩性湿地やサンゴ礁も利用し、サンゴ礁は紅藻・褐藻・緑藻といった餌資源とともに、荒天や捕食者からの避難場所も提供します。
生活史の段階によって利用する環境は大きく異なります。孵化した幼体は最初の数年間を外洋の収束帯で浮遊生活しながら過ごし、めったに人目に触れません。成長すると沿岸の湾や礁湖、海草の茂った浅瀬に定着し、産卵期になると雌は移動して出生地の海岸へ戻ります。生息の目安となる水温は7〜10度が下限とされ、これより冷たい海域には分布しません。
GBIFの月別観測記録では5月に33,320件と最も多く観測される傾向がみられますが、これは目撃記録の集計であり、個体数や生息密度を直接示すものではない点に注意が必要です。2月や9月には観測数が少なくなる傾向も見られます。

行動と暮らし
アオウミガメは生涯の大半を水中で過ごしながらも呼吸のために海面へ戻る必要があり、通常4〜5分潜水したのち1〜3秒だけ海面で呼吸するというサイクルを繰り返します。夜間は捕食者から身を守るため、岩の下やサンゴ礁の岩棚に体を挟み込んで休み、同じ寝場所に何日も戻ってくることが観察されています。
移動性が高く、1日に20〜90キロメートルを泳ぎ、出生した同じ砂浜出身の個体同士で群れをなして移動することがあります。縄張りは積極的に防衛せず、非繁殖期に利用する沿岸の採食域と繁殖期に訪れる出生地の海岸を合わせた行動範囲は3.8ヘクタールから642.2ヘクタールまで個体によって幅があります。
生活史の段階によって行動は大きく変わります。孵化直後の幼体は肉食性で外洋を漂う浮遊生活者として過ごし、成長した幼体や成体は沿岸の海草地で草を食む生活へと移ります。繁殖期には交尾中の雌雄に「エスコート雄」と呼ばれる複数の雄が近づき、交尾中の雄を引き離そうとする行動が見られ、雄はこれに脅威を感じると一時的に離れて他の雄を追い払うこともあります。
コミュニケーション
アオウミガメは主に視覚を使って餌や仲間を認識し、視覚的な姿勢によって意思を伝えます。雌は交尾を受け入れる際、雄に完全に身を委ねる姿勢を示す一方、拒否する場合は後肢を閉じて泳ぎ去ったり、近づく雄に噬みついたりします。さらに独特の「拒否姿勢」として、腹甲を雄に向けて浮き上がり、四肢を大きく伸ばす行動も知られています。
視覚以外にも、内耳で波の伝わる方向や加速度を検知して方向感覚を補う仕組みや、深海での定位に磁場を利用する能力が確認されており、これらは長距離回遊を支える重要な感覚チャンネルとなっています。
狩りと食性
幼体期のアオウミガメは、外洋を漂いながら流れ着く小さな無脊椎動物や浮遊生物を偶然に捕らえる形で餌を得ます。ヒドロ虫類やコケムシ類、アオリガイの卵などのプランクトン状の生物が主な対象で、待ち伏せというよりも漂流中に出会った餌を機会的に口にする採食様式です。
成長するにつれて食性は大きく変化し、成体はほぼ完全な草食性となります。沿岸の海草地では海草の先端部分だけを刈り取り、根は残すという独特の食べ方をし、これが海草の再生を促す結果につながっています。あわせて紅藻・緑藻の仲間である Bostrychia、Caloglossa、Compsopogon、Polysiphonia、Ulva lactuca、Gayralia、Rhizoclonium などの多様な藻類も食べます。
沿岸の塩性湿地では、マングローブの一種である Avicennia schaueriana や塩性草原に生えるコードグラス Spartina alterniflora のような湿地植物も摂取します。回遊性が高いため、食物選択は生息する場所ごとに手に入る植物や藻類に応じて機会的に変化します。
営巣と繁殖
アオウミガメは一雌一雄制ではなく、雌雄ともに複数の相手と交尾する乱交型の繁殖様式をとります。交尾は産卵海岸近くの浅瀬で行われ、雄は雌の肩付近にある「交尾用の切れ込み」をつかんでしがみつき、交尾は数時間、記録的な例では119時間にも及んだことがあります。雌が最初に雄に乗られてから実際に産卵行動に移るまでは平均で15日ほどかかります。
雌は2〜4年ごとに出生地の海岸へ戻り、6月から9月にかけて産卵します。上陸すると砂浜の障害物を取り除き、前肢で穴を掘って巣を作り、卵を産んだ後は砂をかぶせて巣を目立たなくしてから海に戻ります。1繁殖期に1〜9回、平均で3回ほど産卵し、1回の産卵で75〜200個、平均136〜150個ほどの卵を産みます。
産卵から孵化までは45〜75日ほどかかり、孵化した幼体の体重は平均約26グラムです。孵化後、幼体はただちに海へ向かい、性成熟までに27〜50年という長い幼体・若体期を過ごします。産卵後の母親による世話は卵の産みつけと巣の隠蔽だけで、それ以上の育児行動は確認されていません。
メキシコ湾沿岸やハワイのフレンチフリゲート礁、フィリピンのタートル諸島など、世界各地に主要な産卵地が知られています。
個体数と生態的役割
アオウミガメは海草地の生態系において重要な役割を果たしています。海草の先端部分を刈り取って食べることで海草の再生を促し、糞として排出される窒素分の多い排泄物が周辺の栄養循環に寄与しています。
捕食者としては、ハワイ近海のイタチザメ(tiger shark)が成体を含むあらゆる大きさの個体を狙う主要な天敵として知られ、産卵海岸周辺で行動が制限される個体が特に狙われやすくなります。幼体や孵化直後の個体はカニ類、小型海生哺乳類、海鳥など多くの捕食者に狙われ、卵はアカギツネやジャッカルなどの捕食を受けます。
寄生生物や疾病の脅威も大きく、Learedius leardei などの吸虫類は心臓血管系に炎症を引き起こし死に至ることがあります。さらにフジツボ、ヒル、原虫、条虫、線虫などの寄生も見られ、原虫・条虫・線虫による肝臓や消化管の感染は多くの死亡例につながっています。とくに深刻なのは、ヒル Ozobranchus branchiatus によって媒介されるヘルペスウイルスが原因の腫瘍性疾患フィブロパピローマで、鱗や肺、胃、腎臓に致死的な腫瘍を形成します。
保全と脅威
アオウミガメはIUCNレッドリストで絶滅危惧種に指定されており、ワシントン条約(CITES)附属書Iに掲載され、研究目的の許可を除き国際取引が原則禁止されています。アメリカ合衆国連邦リストでは、地中海個体群、中西部太平洋個体群、中南部太平洋個体群が絶滅危惧、その他の多くの個体群が危急として扱われています。
最大の脅威は漁業による混獲で、銛による捕獲や手づかみ、網、輪縄、甲羅を裏返しにする方法など様々な手法で採食域や産卵海岸周辺の成体・幼体が捕獲されています。加えて人工照明も深刻な脅威とされ、ウミガメが人工光を日光と誤認することで、成体の帰路行動や巣作りの完了が妨げられることが指摘されています。
こうした脅威に対し、アメリカ合衆国では魚類野生生物局や国立海洋漁業局が陸上・水中での捕獲を禁じる法律を施行しており、ASEAN海洋ウミガメ保全協定、大西洋アフリカ沿岸のウミガメ保全に関する協定、米州ウミガメ保護条約といった国際的な取り組みも個体群の保全に貢献しています。ただしこれらの努力にもかかわらず、沿岸漁業による圧力は依然として大きな課題です。
文化的意義
属名Cheloniaはギリシャ語のΧελώνη(Khelônê)に由来します。ギリシャ神話では、ケローネーといううぬぼれの強いニンフがゼウスによって亀に姿を変えられ、家をずっと背負って歩く罰を受けたとされています。種小名mydasもギリシャ語で「湿った」を意味し、この種の水生の生態を表しています。
オーストラリアの先住民族(First Nations)の人々にとって、アオウミガメを含むウミガメ類は深い精神的・文化的な意味を持つ存在であり、伝統的な食料源としても利用されてきました。
各国で保護法が定められている一方、東南アジアなどの一部地域では今なお卵や肉を目的とした密猟が続いており、甲羅は装飾品やジュエリーの素材として利用されることもあります。
豆知識
- 甲羅の上ではキイロハギ(yellow tang)が藻やフジツボ、寄生虫を食べ取る共生関係が見られ、これによってアオウミガメの水中での抵抗が減り、掃除と健康維持の両方に役立っています。
- かつて「ガラパゴスアオウミガメ」は別種 Chelonia agassizii として扱われていましたが、15か所の産卵海岸のミトコンドリアDNAと核DNAを分析した結果、独立した種とはいえないことが示され、現在は Chelonia mydas の地域的な変異とされています。
- 泳ぐ速度は時速64キロメートル(時速40マイル)に達することがあり、これはウミガメの中で最も速いとされています。
- 出生地の海岸が失われたり利用できなくなった雌は、まったく別の場所であっても砂の質感や色が似た海岸を選んで産卵することが知られています。
- 大西洋個体群と太平洋・インド洋個体群は、細胞内のミトコンドリアDNAの型が異なることから遺伝的に区別され、これは南米とアフリカの南端によって暖流の経路が長らく隔てられてきたことに由来すると考えられています。
生態
生息地
- 湿地
- 海洋性
- 海岸
行動
- 捕食者
- 水生
- 社会性
- 渡り性
食性
- 雑食性
写真
出典GBIFiNaturalistWikidataWikipediaEncyclopedia of LifeAnimal Diversity WebAnAge



