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ザトウクジラ

Megaptera novaeangliae

軽度懸念

ザトウクジラの雄は、4分から33分にも及ぶ複雑な「歌」を繰り返し歌い続けます。ハワイ沖では、1頭の雄が7時間にわたって歌い続けた例も記録されています。

Megaptera novaeangliae は、ナガスクジラ科(Balaenopteridae)に属するヒゲクジラの一種で、Megaptera属に含まれる唯一の種です。北極圏から南極圏まで、世界中の海に広く分布しており、IUCNの評価では保全状況は「低危険種(Least Concern)」とされています。

大きく跳躍するブリーチングや、尾びれ・胸びれを海面に打ちつける豪快な行動で知られ、ホエールウォッチングの主役として世界中で親しまれています。その巨体が生み出す躍動感ある動きは、一度目にすると忘れられない光景です。

識別と外見

頭部と胸びれの前縁に並ぶ「コブ」(結節、チュバークル)と、体長の約3分の1に達する長い胸びれは、ザトウクジラ特有の外見的特徴です。このコブは基部の厚さが5〜10センチメートル、突起の高さは最大6.5センチメートルに達し、内部にはしばしば毛が1本生えており、神経が集中していることから感覚器官としての役割を持つとみられています。

成体の体長は通常14〜15メートルですが、16〜17メートルに達する個体も記録されています。これまでの最長記録は雄で17.4メートル、雌で18.6メートルですが、17〜18メートル級の記録は不確実性が高いとされています。体重は最大で30,000キログラム(30トン)に達します。誕生時の幼獣はすでに体長約4.3メートル、体重約680キログラムあります。

体色は背側が黒く、腹側は個体によって黒と白の割合が異なります。南半球の個体は北半球より白色部分が多い傾向があります。胸びれの色も全身白いものから、下面のみ白いものまで幅があり、まれに全身が白い個体(真性アルビノの「ミガロー」など)も知られています。尾びれの模様や傷跡は個体ごとに異なり、個体識別の手がかりになります。上あごには540〜800枚の黒いヒゲ板が並び、背びれは小さくほとんど目立たないものから、やや大きく湾曲したものまで変化します。

雌は雄より1〜1.5メートルほど長くなる傾向があり、生殖裂の末端にある「半球状の突起」の有無で雌雄を外見から区別できます。

分布と生息地

ザトウクジラは、赤道付近の一部海域や北極高緯度域、いくつかの内海を除き、世界中の海洋に生息しています。これまでの最北記録は北緯81度、フランツヨシフ諸島の北方です。沿岸性が強く、大陸棚上の海域に群れる傾向があります。

冬には赤道付近の熱帯・亜熱帯海域(緯度0〜35度、水温は最高28℃に達する)で繁殖し、夏には緯度35〜65度の冷たい海域、極域の氷縁付近まで移動して餌を探します。餌場では水深200メートルほどまで潜ることもあります。回遊距離は片道で最大8,000キロメートルに達した記録があります。

北大西洋には冬季の個体群が2つあり、一つはキューバから北ベネズエラにかけての西インド諸島群、もう一つはカーボベルデ諸島と北西アフリカの群です。夏にはそれぞれニューイングランド・カナダ東部・西グリーンランド沖、アイスランド・ノルウェー沖に移動します。北太平洋には少なくとも4つの繁殖個体群(メキシコ、中央アメリカ、ハワイ諸島、沖縄・フィリピン)があり、それぞれアリューシャン列島からカリフォルニア沖、オレゴン・カリフォルニア沖、アラスカ南東部・ブリティッシュコロンビア沖、ロシア極東沖といった餌場に向かいます。インド洋北部のアラビア海(オマーン沖、アデン湾、ペルシャ湾、パキスタン・インド沖)には回遊をしない孤立した個体群が生息しています。南半球では7つの繁殖系群(A〜G)に分かれ、それぞれ南米大陸沖から南極半島、サウスジョージア島周辺などの餌場との間を回遊します。

GBIFの月別観測記録では、7月から8月にかけて記録数が最も多く(8月は約75,000件)、4月に最も少なくなっています(約20,600件)。これはあくまで観測された回数であり、個体数や生息密度を直接示すものではありませんが、夏季に沿岸で目撃されやすい季節性をうかがわせます。

Megaptera novaeangliaeの観察記録の分布図
記録された場所 · GBIF
75,204
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
月別出現件数 · GBIF

行動と暮らし

夏と冬でザトウクジラの行動は大きく変化します。夏の餌場では、比較的安定した群れを作って協力して採餌し、アラスカ沿岸やバハ・カリフォルニア・スル沖で見られる「バブルネット」漁のように、音を介した役割分担も報告されています。一方、冬の繁殖期にはほとんど採餌せず、出産と子育て、そして雌をめぐる雄同士の激しい競争が中心になります。冬でも機会があれば採餌することがあり、メキシコのバハ・カリフォルニア・スル沖やナヤリット沖での記録があります。

母子ペア以外の群れは通常、数日から数週間しか維持されません。冬の群れには、単独で移動する個体、数時間にわたって歌い続ける単独の雄(「歌い手」)、雄と雌または雄同士のペア、母子ペア、母子とそれに付き従う「エスコート」雄、そして最大15頭ほどが激しく争う「競争グループ」など、いくつかの典型的な形態があります。競争グループでは尾びれの打ちつけや体当たり、頭突きなどの攻撃的なやり取りが見られ、雄同士が同盟を結んで主要なエスコートの座を奪おうとすることもあります。

季節ごとの気候変化に合わせて南北の海域を回遊し、はっきりした縄張り行動は確認されていませんが、同じ餌場・繁殖場に毎年戻る傾向があります。巡航速度は時速7.9〜15.1キロメートルで、危険を感じると時速27キロメートルまで加速します。潜水は冬には15〜20分、夏には5分未満のことが多く、稀に水深616メートルまで潜ることもあります。ブリーチングや尾びれ・胸びれの打ちつけといった海面での活発な行動は、遊びやコミュニケーション、寄生虫の除去など複数の目的を持つと考えられています。

シャチは若いザトウクジラだけでなく成体も襲うことが知られ、母親や近縁の成獣が子どもを守るために付き添います。トラザメやサメの仲間、さらには大型のホホジロザメが弱った個体を襲って死に至らせた事例も記録されています。

コミュニケーション

雄は冬の繁殖期に、周波数100ヘルツから4キロヘルツ、倍音は24キロヘルツ以上に達する複雑な「歌」を歌います。この歌は少なくとも10キロメートル先まで届くとされ、「サブユニット」「ユニット」「サブフレーズ」「フレーズ」「テーマ」という階層構造を持ち、人間の言語に見られるジップの法則に従うことも分かっています。

歌の目的については議論が続いています。歌そのものが雄同士の優劣を示す証拠は乏しいものの、歌っていない雄が歌い手を妨害する行動が確認されています。雌が単独の歌い手に近づく例はまれですが、複数の雄が歌う場所に引き寄せられることがあり、レック型の交配システムに近い可能性が指摘されています。歌は近隣の個体群の間で世代を超えて伝わり、変化していきます。北半球では緩やかに変化するのに対し、南半球では周期的な「革命」のように大きく変わることが知られています。

そのほかにも、母子とエスコートの群れでよく聞かれる短く低い「スナート」、成体雄が体格や社会的地位を示すとされる「グランブル」、群れの内外での接触に使われる「スウォップ」「ウォップ」、雄が2頭以上いる競争的な場面で聞かれる高音の「クライ」「バイオリン」「シュリーク」、新しい群れに加わる際の「グラント」「バーク」など、多彩な発声が報告されています。

狩りと食性

ザトウクジラは、状況に応じて5種類ほどの採餌法を使い分ける機会主義的なハンターです。「輪状の泡」漁では、海面で円を描くように泳ぎながら尾びれで水面を打ち、獲物を泡の輪で包み込んでから、その輪の中心に口を開けて浮き上がり獲物をとらえます。「ランジング」では、獲物が密集しているときに垂直または斜めに泳ぎ上がって一気に飲み込みます。「バブル」漁では、水中で息を吐いて泡の雲や柱を作り、獲物を群れさせたり驚かせたりしてから泡の中で浮き上がって捕食します。さらに尾びれで水をかき乱しながら円を描く「テールスラッシング」や、浅く潜って180度回転する「インサイドループ」、オキアミだけを狙う「フリックフィーディング」もあり、これらを組み合わせて使うこともあります。

捕食の仕組みは独特です。水と獲物を一緒に口に含み、のどにある14〜35本の畝(ひだ)を大きく広げて大量の水を取り込みます。口を閉じると水は540〜800枚の黒いヒゲ板の隙間から押し出され、獲物だけが口の中に残り、舌の助けを借りて飲み込まれます。

採餌は主に夏に行われます。北太平洋やベーリング海では、アトカホッケや太平洋サンマ、オキアミ、サバ類、イカナゴ、カラフトシシャモ、ニシンなどを食べ、特にアトカホッケは西アリューシャン列島やアムチトカ島南方の個体群にとって好みの餌とされています。北大西洋の個体群では魚類が食性の約95パーセントを占め、ケープコッドやグリーンランド沖ではイカナゴやニシン、タラの仲間をよく食べます。オーストラリアや南極海の個体群は主にオキアミを餌としています。冬にはほとんど採餌しませんが、メキシコのバハ・カリフォルニア・スル沖やナヤリット沖では機会的な採餌が観察されています。

繁殖と子育て

繁殖形態は一雄多雌かつ一雌多雄的で、雄は発情した雌をめぐって激しく競い合います。雌に最も近づいた「主要エスコート」が他の「挑戦者」を追い払い、少し離れて追随する「副エスコート」はこの争いに直接加わりません。雄同士のやり取りには尾びれの打ちつけや体当たり、頭突きが見られ、雄同士の交尾行動が観察された例もあります。ハワイ沖やクック諸島沖では、複数の雄が雌の生殖部の下に泡を放ち、雌がそれを受け入れるように体を反らせたり尾を持ち上げたりする独特の求愛行動も記録されています。

妊娠期間は11〜11.5か月です。胎児は妊娠初期に歯を持ち、出産が近づくにつれてヒゲ板が発達します。出産の様子が観察された例は少なく、マダガスカル沖で目撃された出産はわずか4分で終わりました。母親は真冬に単胎で出産することが多く、出産前には浅い沿岸海域へ移動してエスコートの雄からの干渉を避け、生まれた子が最初の呼吸のために海面へ上がるのを助けます。

生まれた子は体長約4.3〜5メートル、体重約680キログラムで、背びれは丸まった状態で生まれ、成長するにつれて徐々にまっすぐになります。背びれが丸まっている間はより多くの時間を移動と呼吸に使い、まっすぐになった個体は長く潜って休息できるようになります。授乳期は最長1年ほど続きますが、生後6か月ごろから成獣と同じ餌も口にするようになり、成長するほど母親から離れて過ごす時間が増えます。父親による育児への関与は確認されていません。

性成熟の時期は個体群によって4〜5歳から15歳までと幅があり、体の成長が完全に止まる「肉体的成熟」は8〜12歳ごろとされています。雌は通常2年に1回出産し、まれに3年で2回出産することもあります。寿命は50年を超えることが多く、記録されている最高齢の個体は95歳でした。

保全と脅威

IUCNは2018年の評価でザトウクジラを「低危険種」としており、世界の総個体数は約135,000頭、うち成獣は約84,000頭と推定され、個体数は増加傾向にあります。地域別では北大西洋に約13,000頭、北太平洋に約21,000頭、南半球に約80,000頭が生息するとされています。ただし、アラビア海に孤立して生息する個体群はわずか約80頭しか残っておらず、この個体群単独では絶滅危惧の状態にあります。

ザトウクジラは16世紀後半から捕鯨対象とされ、沿岸に近づく習性のためにその海域で最初に狙われる種であることが多くありました。南半球だけでも1910年から1916年の間に60,000頭以上が捕獲され、1930年代と1950年代にも捕獲のピークがありました。北太平洋では1962〜63年に3,000頭を超える捕獲があり、北大西洋の個体群はわずか700頭程度まで減少しました。ソビエト連邦は1947年から1972年の間に2,820頭の捕獲としていましたが、実際の捕獲数は48,000頭以上だったことが後に判明しています。こうした乱獲を受けて、南極海(1939年、1949年に撤回)、南半球(1963年)、北大西洋(1956年)、北太平洋(1966年)で相次いで捕獲禁止が導入され、国際捕鯨委員会(IWC)は1985年に商業捕鯨の一時停止(モラトリアム)を実施しました。

現在の主な脅威は、漁具への絡まり、船舶との衝突、船舶や人為的な騒音による影響、沿岸生息地の破壊、そして気候変動です。2016年1月から2019年2月の間に米国大西洋沿岸で88頭の座礁が記録され、これは前の期間の2倍以上にあたるため、NOAAは2017年に「異常死亡事象」を宣言しました。座礁の主な原因は船舶との衝突と漁具への絡まりとされています。マゼラン海峡周辺では、2013年以降、船との衝突が最も多く報告されているクジラ種がザトウクジラです。

コスタリカのバレナ海洋国立公園や、1992年に設立されたハワイ諸島ザトウクジラ国立海洋保護区など、繁殖・生息海域を守るための保護区が設けられています。

軽度懸念

文化的意義

マオリの伝承では、海で遭難したカフティア・テ・ランギが海神タンガロアに助けを求めたところ、ザトウクジラ(現地語でパイケア)に乗せられて陸地(アオテアロア)にたどり着いたとされ、彼はその後「パイケア」と名を改めました。個人が大きな出来事や生還を経験した後に新しい名前(インゴア・ホウ)を名乗るというマオリの伝統的な習わしを示す例で、口承の歴史や祖先の神々とのつながりを保つ役割を果たしています。

人とのかかわりでは、ザトウクジラは歴史的に商業捕鯨で重要な対象種の一つでした。得られた油はランプの燃料や機械の潤滑剤として重宝され、マーガリンや食用油脂の原料にも使われました。肉は人間の食用や飼料に加工され、骨からとれる粉は肥料として利用されていました。

現在ではそうした利用はほとんど行われておらず、代わりにホエールウォッチングによる経済効果が大きくなっています。1975年にニューイングランドとハワイでツアーが始まり、ハワイだけで年間約2,000万ドルの収益を生み出しています。活発な海面行動や船への慣れやすさから、写真愛好家や教育目的の観察者にとっても人気の対象となっています。

豆知識

  1. 真性アルビノの個体「ミガロー」のように、全身が白いザトウクジラも確認されています。
  2. ザトウクジラの脳には、人間で「心の理論」に関わるとされるスピンドル細胞(紡錘細胞)が確認されています。
  3. 視力は比較的弱く、遠くの物体はシルエットとしてしか見えないとされる一方、聴覚は歌の周波数帯にちょうど対応する範囲(刺激部位によりおよそ15ヘルツから9キロヘルツ)で機能すると考えられています。
  4. 皮膚には Coronula diadema や Coronula reginae といったフジツボの仲間や、ザトウクジラにしか寄生しないクジラジラミ Cyamus boopis が付着します。
  5. 小説『白鯨』でメルヴィルはこの種を「最も遊び好きで陽気なクジラ」とロマンチックに描きましたが、1871年にコープはこの種に Megaptera bellicosa(闘争的なオオヒレ)という対照的な名を与えています。

写真

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生態と分類

行動

  • 捕食者
  • 水生
  • 社会性
  • 渡り性

食性

  • ろ過摂食者

分類

門
Chordata
綱
Mammalia
目
Cetacea
科
Balaenopteridae
属
Megaptera
種
Megaptera novaeangliae

出典

  1. GBIF Species names and classification
  2. iNaturalist Photos
  3. Wikidata Common names and conservation status
  4. Wikipedia Summary extract
  5. Encyclopedia of Life Habitat, diet and behavior traits
  6. Animal Diversity Web Animal habitat, behavior and diet
  7. AnAge Longevity