黄色い花が咲き終わると、無数の銀色の冠毛をもつ丸い球体に変わり、風に乗って種子を飛ばします。この姿は「時計」や「吹き球」と呼ばれ、多くの人に親しまれています。
セイヨウタンポポ(Taraxacum officinale)はキク科の多年草で、ヨーロッパとアジアを原産としながら、現在では世界中の温帯地域に広がっています。身近な野草でありながら、その生態や利用の幅広さは読み応えがあります。
識別と外見
最も分かりやすい特徴は、葉のない中空の花茎の先に一つだけ咲く黄色い花頭です。花茎は通常5〜40センチメートルほどですが、時に70センチメートルに達することもあります。茎はしばしば紫色を帯び、直立するものも横に伸びるものもあります。
葉はすべて根元から生え、長さ5〜45センチメートル、幅1〜10センチメートルで、倒披針形から倒卵形をしています。葉縁は浅く裂けるものから深く裂けるものまであり、鋭いまたは鈍い鋸歯を持つことが多いです。植物全体に乳白色の樹液を含みます。
花頭は幅14〜25ミリメートルの総苞に包まれ、緑から暗緑色、時に褐色を帯び、先端は暗灰色や紫色を帯びます。花頭には40から100以上の小花が集まり、黄色から橙黄色の花冠を持ちます。果実(痩果)は長さ2〜3ミリメートルで、細い突起があり、幅約6ミリメートルの絹のような白い冠毛を備えています。
花期以外の姿は、Chondrilla junceaなど、似たロゼット状の葉を持つ植物と見分けにくいことがあります。
分布と生息地
セイヨウタンポポはヨーロッパとアジアを原産としますが、かつて食用作物として北米に持ち込まれ、現在では北米全土、南部アフリカ、南米、ニュージーランド、オーストラリア、インドなど世界中に帰化しています。
生育地は芝生や道端、荒れた土手、水辺など、湿った土壌のある温帯地域を好みます。混み合った環境や気温の変化、乾燥にも強く、非常に丈夫な植物です。
観察記録の月別データでは春から初夏にかけて件数が大きく増える傾向が見られますが、これは開花期に人目につきやすいための観察数の偏りであり、個体数そのものを示すものではありません。
栽培が難しい熱帯地域では、コレクターが海外から種子を持ち込むこともあるほど、環境によって希少価値を持つこともあります。

生態と関わり
種子生産力が非常に高く、一つの花頭から54〜172個の種子ができ、一株で年間5,000個以上の種子を作ることもあります。密生した群落では、1ヘクタールあたり年間9,700万個以上の種子が生産されると推定されています。種子は風によって数百メートル先まで運ばれ、土壌中で長期間生存し、9年後に発芽した例も報告されています。
鱗翅目(チョウやガ)の幼虫の食草となり、例えばハマキガ科のCelypha rufanaが知られています。花粉は栄養価が高くないものの、ミツバチにとって早春の重要な栄養源となり、単一作物栽培が広がる環境で栄養の多様性を補う役割も果たしています。ある調査では、柳やセイヨウナツユキソウ、ブラックベリーに次ぐ重要な花粉源として位置づけられています。
一方で、農地や住宅地の芝生では侵入的な雑草として扱われ、農業に経済的損害を与えることもあります。土壌中のカリウムやカルシウムの濃度を示す指標植物としても利用され、カルシウムの少ない土壌やカリウムの多い土壌を好みます。大気中の二酸化炭素濃度が高まる条件では生育量や種子数が増えるため、今後さらに競争力を強めると考えられています。
利用と人との関わり
葉は「ダンディライオン・グリーン」として生や調理して食べられ、若い葉やつぼみはサラダに、成長した葉は加熱して利用されます。花はダンディライオンワインの原料となり、根を焙煎して粉にしたものはコーヒーの代用品として使われてきました。ネイティブアメリカンの間では食用および薬用植物として用いられてきた歴史もあります。
利尿作用があるとされ、中国の伝統医学では約2,000年にわたり葉が利尿剤として使われてきました。フランス語の俗称「ピサンリ」もこの利尿作用にちなんだものです。花からは黄色い染料が得られ、乳液は接着剤のように使われることもありました。
無性生殖により遺伝的に同一の個体を得やすいため、科学研究の対象としても利用されており、世界中に分布し親しみやすいことから、民族植物学を通じた教育教材としても評価されています。吹く息で綿毛を飛ばして運命を占う民間信仰も伝えられています。
保全と脅威
セイヨウタンポポは2013年にIUCNによって「低危険種」と評価されており、これは個体数が多く安定していることを示しています。2016年にはNatureServeも「世界的に安定」(G5)と評価しました。
世界中に広く分布し、丈夫で適応力の高い植物であるため、当面は保全上の懸念は特にありません。
豆知識
- 学名のTaraxacumはアラビア語の「タラフシャゴグ」に由来し、「苦い薬草」を意味しています。
- スコットランドでは「魔女のガウン」「死の頭の時計」「ブンブンパイプ」など、地域独特の呼び名が伝えられています。「ブンブンパイプ」はミツバチの羽音と中空の茎にちなんだ名前です。
- ネイティブアメリカンの民話では、金髪の少女に恋をした南風が、彼女が年老いて白髪になったことに気づき、その悲しみのため息が綿毛を吹き散らし、新たな金髪の娘たちを生み出したと語られています。
写真
写真の提供元はvia iNaturalist, licensed under CC0 1.0.、by Stanislav Murashkin via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.です。各写真に撮影者のクレジットを記載しています。
生態と分類
分類
- 門
- Tracheophyta
- 綱
- Magnoliopsida
- 目
- Asterales
- 科
- Asteraceae
- 属
- Taraxacum
- 種
- Taraxacum officinale
出典
- GBIF Species names and classification
- iNaturalist Photos
- Wikidata Common names and conservation status
- Wikipedia Summary extract



