体重はわずかほどですが、ミソサザイの歌声はニワトリと同じ重さに換算すると10倍もの声量を持つといわれています。小さな体に似合わない力強さを持つ鳥です。
ミソサザイはスズメ目ミソサザイ科に属する小型の食虫性の鳥で、ユーラシア大陸からアフリカ北部(マグレブ地方)にかけて分布しています。ミソサザイ科の中で旧世界に生息する唯一の種です。背面は赤褐色、腹面はより淡い色合いで、全身に細かい横縞模様が入ります。保全状況は低危険種とされています。
分布域はにも及び、寿命は最長で記録されています。小さな体に見合わない大きな声と、複雑な繁殖行動を持つこの鳥は、観察すればするほど興味深い発見があります。
識別と外見
最も目立つ特徴は、常に上に立てられた短い尾です。ずんぐりとした体つきに丸みを帯びた翼を持ち、体長は約9〜10センチメートル、翼を広げると13〜17センチメートルほどになります。体重は約です。
体色は背面が赤褐色、腹面はより灰色がかった色合いで、翼や尾を含め全身に暗褐色と灰色の細かい横縞模様が入ります。くちばしは暗褐色で細長く、脚は淡褐色で、強い爪と大きな後趾を持っています。
幼鳥は横縞模様がやや不明瞭で、下面に斑模様が見られます。性別による外見の違いはほとんどありません。羽色には個体差があり、隔離された地域の個体群では特定の色合いが固定化する傾向が見られます。
分布と生息地
ミソサザイは落葉樹林を好みますが、実際には非常に幅広い環境に生息しています。牧草地や農地、低木林、針葉樹林、町や村、ヒースランド、草地、湿地、耕作地などでも見られ、地表近くの密な植生を好みます。
分布の中心はユーラシア大陸(旧北区)で、基亜種はノルウェーの北緯67度、スウェーデン・フィンランド・ロシアの北緯64度まで北上して繁殖します。南限はスペイン北部、フランス南部、イタリア、シチリア島、ロシア南部です。西アジアではシリアまで分布し、アイスランド、フェロー諸島、シェトランド諸島、ヘブリディーズ諸島、セントキルダ島などでは別の亜種に置き換わります。さらに南の北西アフリカ、スペイン・ポルトガル、バレアレス諸島、コルシカ島、サルデーニャ島、クレタ島、キプロス島にも別亜種が分布し、ロシア南部から東アジア、日本にかけても別の亜種が見られます。
利用する環境は非常に多様で、庭園、生け垣、やぶ、植林地、森林、ヨシ原のほか、ブラックベリーの茂みやハリエニシダの茂み、荒れた牧草地、ムーアランド、岩がちな斜面、岩の多い海岸や海食崖といった開けた場所にも生息します。観測記録には季節による増減が見られ、これは生息地の利用パターンの違いを反映している可能性があります。

行動と暮らし
ミソサザイの個体群には定住性のものと渡りをするものの両方があり、渡りをする個体群は短距離を移動します。渡りの個体は10月頃に越冬地に到着し、3月頃に離れます。定住性の個体群ではオスが一年中縄張りを保持し、他のオスによる縄張りの乗っ取りを警戒し続けなければなりません。
冬の悪天候時には、ねぐらとなる隠れ場所に退避します。単独でねぐらをとることもありますが、群れでねぐらをとることもあり、良い隠れ場所で群れになったほうが冬を生き延びやすいとされています。ワシントン州のある巣では31羽が一緒にねぐらをとっていた記録もあります。
縄張りの大きさは状況によって大きく異なり、平均は8,000から12,000平方メートルほどですが、他の個体から孤立していたアイスランドのある個体は約24万〜36万平方メートルという非常に広い縄張りを守っていました。
日中は絶えず活動し、地表近くでせわしなく昆虫を探し回ります。素早く跳ねるように動き、隙間を覗き込み、古い石積みを調べ、倒木に飛び乗ってその間を探ります。飛行は短く素早いものですが、渡りの際には北海の500キロメートル以上の距離を飛び越えるなど、長距離の持続飛行も可能です。最長の移動記録はロシア・カリーニングラードのロッシッテン鳥類観測所からイングランド南部ボシャムまでの1,524キロメートルです。
コミュニケーション
オスは縄張りの確立と維持のために歌を用います。歌は非常に速く変化に富み、1秒間に15から40の音を含み、全体で5秒から10秒続きます。この歌声は非常に力強く、体の重さで換算するとニワトリの10倍もの出力で歌うとされています。
歌は約5,500ヘルツという高音域が中心のため、距離が離れるほど劣化しやすい性質があります。これを補うため、オスは高さ1から4メートルほどの目立つ場所を選んで歌い、信号の劣化を減らそうとします。他のオスの歌を聴いて、その劣化の程度から相手がどれくらい近くにいるかを判断でき、近くにいると分かると、より攻撃的に反応します。
歌が最も重要になるのは夜明けの前後で、このときに縄張りを奪おうとするオスが侵入してくるためです。メスはオス同士の歌の競い合いを聞いており、気に入ったオスの歌を聞くと、後でひそかにその気に入ったオスと交尾することがあります。
食性と栄養
ミソサザイは昆虫を中心とする肉食性の鳥で、地表で餌を探します。昆虫やその幼虫に加えて、ヤスデやクモも定期的に食べます。水辺の環境にいる場合は、水生の無脊椎動物を捕食することもあります。
小さな体のおかげで、他の食虫性の鳥が入れないような狭い場所でも餌を探すことができます。記録されている餌にはシジミチョウ類やヒョウモンチョウ類などの蝶、カゲロウの仲間などが含まれています。
営巣と繁殖
繁殖期は3月中旬から8月中旬です。オスは縄張り内に複数の巣を作ります。これは「オス巣」と呼ばれ、最大12個、平均で6個ほど作られます。良い縄張りを持つオスは複数のメスと交尾する一妻多夫制をとることがあり、最大で9羽のメスと関係を持った記録もあります。
オスは歌と誇示行動でメスを引き寄せます。メスが現れると、オスは縄張り内のすべてのオス巣を案内し、その周りで誇示行動を見せます。メスは複数の巣を見比べた上で、巣の数が多いオスを好んで選ぶ傾向があります。選んだ巣には、メスが羽や毛を使って内側に裏張りを施します。もし巣が捕食者に壊されると、メスは通常そのオスと縄張りを見捨てて新しい相手を探します。
巣はドーム状で側面に入り口があり、草、コケ、地衣類、枯れ葉など周囲で手に入るものから作られます。壁や木の穴、岩の裂け目に作られることが多いですが、ブラックベリーの茂みや生け垣、ツタの中などにも作られます。卵は4月以降に5〜6個(範囲は3〜11個)産まれ、白地に赤褐色の斑点が入ります。メスのみが抱卵し、14〜15日で孵化します。雛はおよそ16日で巣立ちますが、巣内で雄が餌を与えた記録はなく、巣立ち後にはオスも餌やりを手伝います。通常、一夏に二回繁殖します。
個体数と生態的役割
個体数は約3,600万羽と推定され、深刻な減少傾向は見られません。イギリスでは個体数が増加傾向にあります。ヨーロッパの繁殖個体数は3,270万から5,650万つがい、成熟個体数にして6,530万から1億1,300万羽と推定されています。
生態系の中では昆虫を食べる捕食者であると同時に、より大型の捕食者の餌にもなっており、重要な役割を担っています。記録されている捕食者にはハシボソガラス、カケス、ワタリガラス、ミヤマガラスなどのカラス類や、クロヘビ類、クロテンなどが含まれます。
また、羽ダニ類に寄生されることがあり、カッコウによる托卵の対象にもなっています。
保全と脅威
ミソサザイはIUCNレッドリストで低危険種に分類されています。これは非常に広い分布域、増加傾向にある個体数、そして世界的に見て十分な規模の個体数によるものです。
アメリカの移動鳥類保護法では保護対象とされていますが、アメリカ連邦リストやワシントン条約(CITES)では特別な指定はありません。
寒さに弱い小型の食虫性の鳥であるため、気温が持続的に低くなると個体数が減少する傾向があり、気候変動の指標としても利用されています。人の生活圏では害虫の個体数を抑える役割も果たしているとされています。
文化的意義
ヨーロッパの民間伝承では、ミソサザイは「鳥の王」とされています。プルタルコスがアイソーポス(イソップ)に帰した寓話によれば、ワシとミソサザイが最も高く飛ぶ競争をした際、ミソサザイはワシの背に乗り、ワシが疲れたところで一気に飛び立ち、ワシより高く上がって知恵が力に勝ることを示したといいます。アリストテレスやプルタルコスはミソサザイを「バシレウス(王)」「バシリスコス(小さな王)」と呼びました。ドイツ語では「ツァウンケーニヒ(垣根の王)」、古いドイツ語では「シュネーケーニヒ(雪の王)」、オランダ語では「ウィンターコーニング(冬の王)」と呼ばれ、いずれも「王」を意味する言葉が含まれています。日本では「風の王」と呼ばれ、タカたちが捕らえられなかったイノシシを、ミソサザイが耳の中に飛び込んで狂わせて狩ったという伝説も伝えられています。
ドルイド僧にとっては神聖な鳥とされ、「すべての鳥の王」と考えられ、その鳴き声は占いに用いられました。キリスト教の聖ステファノの伝説では、隠れていた聖ステファノを騒がしく鳴いて裏切ったとされ、聖ステファノの日(12月26日)には「ミソサザイ狩り」という伝統行事が行われ、捕らえたミソサザイを町中で行進させる風習がありました。ユリウス・カエサルの暗殺は、ローマ元老院に月桂樹の枝を咥えて逃げ込んだミソサザイが他の鳥に引き裂かれる様子によって予言されたと、スエトニウスは記しています。
イギリスの旧ファージング硬貨には1937年から1960年までミソサザイが描かれていました。これはイギリス最小の鳥と考えられていたためです。アルバニア、ベルギー、フランス、ドイツ、イギリス、アイスランド、アイルランド、アメリカ、バチカンなど多くの国の切手にも登場しています。
豆知識
- ミソサザイのオスは縄張り内に最大12個、平均6個もの「オス巣」を作りますが、メスが選ぶまでは内側に裏張りをしません。
- 隔離された環境にいたアイスランドのある個体は、通常の数十倍にあたる広大な縄張りを単独で守っていました。
- 渡りの際には北海の500キロメートル以上の距離を飛び越えることができ、最長では1,524キロメートルを移動した記録があります。
- ワシントン州では、冬の夜に31羽が一つの巣に集まってねぐらをとった記録があります。
- アメリカの移動鳥類保護法で保護対象とされていますが、ワシントン条約などでは特別な指定を受けていません。
写真
写真の提供元はvia iNaturalist, licensed under CC0 1.0.、by Aurelijus Narbutas via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.、by delilah88 via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.、by Summer J. Smentek via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.、by Константин Селивёрстов via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.、by Dmitry Ivanov via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.、by Ross McCallum via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.、by Елена Смирнова via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.、by Tilgate Zoo via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.、by Sander Vollmer via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.、by Ian Andrews via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.、by ikelman via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.、by Holly Hodges via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.、by euqirneto via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.、by Teo Albert via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.です。各写真に撮影者のクレジットを記載しています。
生態と分類
分類
- 門
- Chordata
- 綱
- Aves
- 目
- Passeriformes
- 科
- Troglodytidae
- 属
- Troglodytes
- 種
- Troglodytes troglodytes
出典
- GBIF Species names and classification
- iNaturalist Photos
- Wikidata Common names and conservation status
- Wikipedia Summary extract
- Animal Diversity Web Animal habitat, behavior and diet
- AnAge Longevity
- AVONET Bird mass, habitat, migration, diet and range size
- GloBI What it eats, what eats it, parasites and pollinators
- trophiCH
- HWML Parasite Collection
- TETRA-EU



