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セイヨウカジカエデ

Acer pseudoplatanus

LC軽度懸念
大きく広がる丸い樹冠を持つ落葉高木で、掌状に5裂した緑色の葉と翼のある種子をつけたセイヨウカジカエデの成木。写真: via iNaturalist, licensed under CC0 1.0.、CC0

ひと目でわかる

主な特徴
森林高木
分類
門
Tracheophyta
綱
Magnoliopsida
目
Sapindales
科
Sapindaceae
属
Acer
種
Acer pseudoplatanus

セイヨウカジカエデ(Acer pseudoplatanus)は、中央ヨーロッパと西アジアを原産地としながら、ヨーロッパ全域や北米、オセアニアなど世界各地に広がり、一部の国では侵略的外来種として警戒されるほど旺盛な繁殖力を持つ樹木です。

本種はムクロジ科(Sapindaceae)カエデ属に属する大型の落葉広葉樹で、風や海からの塩害にも強いことから、原産地の森林だけでなく都市公園や沿岸部でもよく見られます。

花の性別を年によって、あるいは樹冠の部位によって切り替えるという複雑な繁殖戦略や、バイオリンなどの楽器材として重宝される木材など、一本の木に多くの物語が詰まっている点も見逃せません。

識別と外見

セイヨウカジカエデを見分ける最も確実な手がかりは、翼果(羽根のついた種子)の翼が直角に近い角度で開いていることです。これはノルウェーカエデ(Acer platanoides)やイギリスカエデ(Acer campestre)でほぼ平行に近い角度になる翼や、Acer saccharumでほぼ平行になる翼と明確に区別できる特徴です。成木は高さ20〜35メートルに達し、枝は広く丸みを帯びた樹冠を形成します。

樹皮は若い木では滑らかな灰色ですが、成長するにつれて鱗状に割れて剥がれ、下から淡い茶色からピンクがかった内皮が現れます。冬芽は対になって卵形で先端が尖り、芽鱗は緑色で縁と先端が濃い茶色を帯び、長さは0.5〜1センチメートルほどです。葉が落ちた後には馬蹄形の葉痕が枝に残ります。

葉は対生し、長さ10〜25センチメートルの掌状で5つの尖った裂片に分かれ、縁は粗い鋸歯状です。革質で裏面には太い葉脈が浮き出ており、表は濃い緑色、裏は淡い色をしています。葉柄は5〜15センチメートルで、しばしば赤みを帯びます。園芸品種の中には若葉が紫色や黄色を帯びるものもあります。

花は葉が展開したあとの5〜6月ごろ、垂れ下がった長さ10〜20センチメートルの花序に60〜100個ほど咲きます。同一の木の中でも花の性の機能が年や部位によって変わる複雑な仕組みを持ち、自家受粉を避けるよう進化してきました。受粉から約4か月後の秋に種子が成熟し、翼のついた種子(サマラ)は風を受けて回転しながら落下し、親木から離れた場所へ散布されます。近縁種のAcer heldreichiiやAcer velutinum、さらにAcer griseumとの交雑も知られています。

分布と生息地

セイヨウカジカエデの自然分布域は中央・東ヨーロッパと西アジアに広がり、アルバニア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、チェコ、フランス、ジョージア、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、リトアニア、オランダ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、ロシア南部、スペイン、スイス、東トラキア、および旧ユーゴスラビア諸国に及びます。かつてトルコ東部にも分布するとされていましたが、これはAcer heldreichii subsp. trautvetteriの誤認であったことが判明しています。

イギリス諸島には16世紀初頭のテューダー朝時代までに持ち込まれたとみられ、野生での記録は1632年のケント州が最初です。アイルランドでは17世紀の古木がカヴァン州に残っており、スウェーデンには1770年頃オランダから種子が導入されました。現在ではイギリスの区画(ヘクタッド)の89.7パーセントに生育が確認され、いかなる自生種の樹木よりも広く分布しています。

ヨーロッパ以外にも公園樹や街路樹として持ち込まれ、アメリカ合衆国(1870年頃導入、コネチカット州やニューヨーク州など14州で野生化)、カナダのブリティッシュコロンビア州やオンタリオ州など、オーストラリアのビクトリア州やタスマニア州、チリ、パタゴニア、ニュージーランド、さらにマデイラ諸島やアゾレス諸島の照葉樹林にまで定着しています。種子の生産力が旺盛なため在来種を駆逐する例が報告され、ニュージーランドやノルウェー、アメリカ農務省の見解では侵略的外来種として扱われています。

生育環境は原産地では森林や生垣が中心ですが、非常に頑健なため都市公園や海岸沿いの強風地帯、放棄農地、鉄道沿線、荒れ地など人為的に乱された環境にも容易に侵入します。GBIFの月別観察記録では6〜7月にかけて観察数が最も多くなっていますが、これは生育のピークではなく観察活動が活発になる時期を反映したデータにすぎない点に注意が必要です。

Acer pseudoplatanusの観察記録の分布図
記録された場所 · GBIF
180,113
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
月別出現件数 · GBIF

生態と関わり

原産地では、セイヨウカジカエデはシラカバ属(Betula)やブナ属(Fagus)、モミ属(Abies)の森林を構成する一員として自然に生育しています。一方で、伐採跡地や放棄農地、鉄道沿線などの荒れた環境にも積極的に侵入する性質があり、マデイラ島やポルトガルの照葉樹林ではこの侵入により生態系が劣化し、希少な固有種のランDactylorhiza foliosaを脅かす存在にもなっています。根は菌根菌Glomus hoiと特異的な共生関係を結び、土壌中のリンの吸収を助けています。

葉はスズメガ科の一種であるシカモアガ(Acronicta aceris)やPtilodon cucullina、Ptilophora plumigeraなどの幼虫の食料となります。アブラムシが多く付くため、それを捕食するテントウムシやハナアブも集まります。花は豊富な花粉と蜜を提供し、ミツバチなどの昆虫を引き寄せ、種子はハタネズミなどの小型哺乳類や鳥類の食料になります。

一方で害虫や病気にも悩まされます。アブラムシの一種Drepanosiphum platanoidisは樹液を吸い、大量の甘露をまき散らして葉や周囲を汚します。ハダニ科のEriophyes macrorhynchusやAceria pseudoplataniは葉に赤い虫こぶや「フェルト状のこぶ」を作ります。すす病菌(Cryptostroma corticale)に感染すると樹冠が萎れて枝が枯死し、樹皮下に黒い胞子の層が露出することもあります。タールスポット病(Rhytisma acerinum)では葉に黄色の縁取りを持つ黒い斑点が生じますが、木の勢いへの影響は比較的小さいとされています。

利用と人との関わり

この木は文化的にも豊かな連想を持ち、北欧神話では愛と豊穣、そして戦いの女神フレイヤと結び付けられてきました。古代ギリシャでは結婚や出産を司る女神ヘラと結び付けられる一方、葉の尖った形状から軍神アレスや、その赤みを帯びた色合いから恐怖の神フォボスとも関連づけられています。

セイヨウカジカエデは強風や大気汚染、道路の融雪剤による塩害、海からの塩風にも耐えることから、都市の公園樹や街路樹、沿岸部の防風樹として広く植えられています。若葉が鮭色に染まる'Brilliantissimum'は王立園芸協会のアワード・オブ・ガーデン・メリットを受けたセイヨウカジカエデ唯一の園芸品種です。伐採しても株や根から再び萌芽するため、萌芽更新(コピシング)によって小径材を得る用途にも使われ、盆栽としてヨーロッパ各地で育てられています。

木材は硬く木目が細かい白〜クリーム色で、経年により金色を帯びます。どの方向にも加工・製材しやすく、家具や建具、床材、寄せ木細工、さらに着色しないためキッチン用品や木製スプーン、まな板などに利用されます。波状の木目を持つ個体は装飾用ベニヤ材として特に高値がつき、伝統的にバイオリンの裏板や首、スクロール、フラメンコギターの材料としても使われてきました。花はミツバチにとって豊富な蜜と花粉の供給源となり、淡い色で香り高い蜂蜜が作られます。また春には樹液を採取してシロップや飲料、ビールの原料にすることもできます。

豆知識

  1. セイヨウカジカエデは4倍体(染色体数2n=52)であり、近縁種のイギリスカエデやノルウェーカエデが2倍体(2n=26)であるのとは遺伝的に大きく異なります。
  2. スコットランド・ゲール語には古くから「fior chrann」という名称が存在し、この木が16世紀の記録より前からスコットランドに存在していた可能性を示す手がかりとされています。
  3. 枝垂れ性の園芸品種'var. pendulum'は1850年以前にロンドンのチェルシーで販売されていましたが、現存する個体は確認されていません。
  4. すす病菌Cryptostroma corticaleが作る胞子は、人に吸い込まれるとアレルギー性の過敏性肺炎(「メープル樹皮剥き人病」)を引き起こすことがあります。
  5. スコットランドでは、下枝が重みで折れにくいという丈夫さから、かつて絞首刑の際に用いられる木として選ばれた歴史があります。
  6. 馬が種子や発芽直後の実生を食べると、しばしば致死的な非定型ミオパチーという病気を発症することが知られています。

保全状況

  1. LC
  2. NT
  3. VU
  4. EN
  5. CR

軽度懸念

生態

生息地

  • 森林

生育型

  • 高木

写真

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大きく広がる丸い樹冠を持つ落葉高木で、掌状に5裂した緑色の葉と翼のある種子をつけたセイヨウカジカエデの成木。写真: via iNaturalist, licensed under CC0 1.0.、CC0

出典GBIFiNaturalistWikidataWikipediaEncyclopedia of Life