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イヌワシ

Aquila chrysaetos

LC軽度懸念
後頭部からうなじにかけて金色がかった羽をもつ、濃い茶色の大型猛禽が翼を広げて飛んでいる姿写真: via iNaturalist, licensed under CC0 1.0.、CC0

計測値

体重
3–3 kg
寿命
≤ 48 年
分類
門
Chordata
綱
Aves
目
Accipitriformes
科
Accipitridae
属
Aquila
種
Aquila chrysaetos

イヌワシ(Aquila chrysaetos)は、優れた飛行能力と鋭い鉤爪を武器に、ノウサギやマーモットなどの中型の哺乳類を狙う大型の猛禽です。

本種はタカ目タカ科に属し、体は濃い茶色の羽毛で覆われ、後頭部からうなじにかけて金色がかった羽色を見せることが名前の由来となっています。幼鳥は尾に白い部分を持ち、翼にも白斑が現れることがあります。生息地は山地や荒野、開けた草原など多岐にわたり、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは「低危険種(Least Concern)」に分類されています。

力強い飛翔能力と洗練された狩りの技術、そして人間の文化に深く根付いた存在感を併せ持つ点が、この猛禽を特に興味深いものにしています。

識別と外見

後頭部からうなじにかけて広がる金色がかった羽衣が、イヌワシを識別する最大の手がかりです。全身は主に濃い茶色で覆われ、翼の内側や尾には灰色がかった部分も見られます。

体長は66~102センチメートル、翼を広げた時の長さ(翼開長)は1.8~2.34メートルに達し、ワシ科の中でも大型に位置づけられます。体重は亜種によって大きく異なり、最大級のヒマラヤ産亜種では雄が平均4.05キログラム、雌が6.35キログラムに達する一方、最小の日本産亜種(A. c. japonica)では雄が2.5キログラム、雌が3.25キログラムほどにとどまります。種全体で見ると、雄の平均体重は約3.6キログラム、雌は約5.1キログラムです。

メスはオスより大きく、大型亜種ほどこの差が顕著になります。ヒマラヤ産の亜種ではメスがオスより約37%重く、翼の長さも約9%長くなりますが、小型の日本産亜種ではその差は体重で約26%、翼の長さで約6%程度に縮まります。

幼鳥は成鳥より全体的に黒みが強く、特に東アジアの個体群では背中が黒く見えます。尾羽の約3分の2は白く、先端に太い黒帯が入るのが特徴で、生後1年未満の個体ほど白い部分が目立ちます。翼にも白い斑紋が現れることがありますが、大きさや形には個体差が大きく、ほとんど白斑が見られない幼鳥もいます。

分布と生息地

イヌワシは海抜0メートルから3600メートルまでの開けた、または半開けた環境に生息し、ツンドラ、タイガ、山地、草原、低木地、針葉樹林、半砂漠の峡谷など多様な植生を利用します。狩りに適した開けた場所を好み、密林や都市部、農地といった開発地はほとんど避けますが、南ユカンなどの人里離れた地域では、道路上の轢死動物やゴミ集積場に現れることもあります。

地域ごとに生息環境は異なり、ユーラシアの北極圏縁辺ではコラ半島から東シベリアのアナディルにかけてツンドラとタイガの境界に生息し、スコットランドやアイルランド、スカンジナビア西部では山岳地帯の高地草原や湿原を利用します。中央ヨーロッパではピレネー山脈、アルプス、カルパティア山脈、コーカサス山脈といった主要山系に集中し、樹木限界付近に営巣して高山の牧草地で狩りを行います。地中海沿岸ではイベリア半島やモロッコのアトラス山脈からギリシャ、トルコ、イラクにかけての低山地に、カスピ海南部からヒンドゥークシュ山脈にかけてはステップに囲まれた乾燥した山岳地に生息します。

さらに標高の高いアルタイ山脈、パミール高原、チベット、新疆のテンシャン山脈では、樹木限界を超える標高2500メートル以上の岩場に営巣し、隣接する高山草原で狩りを行います。チベットのラサ川流域では、ヒマラヤハゲワシと同じ空域を利用することも知られており、1975年5月にはクンブ地方で標高6190メートルを旋回する個体が記録されました。

営巣地としては断崖の岩棚が好まれますが、樹木や河岸、人工構造物も利用され、西部山岳地帯では標高1219~3048メートルの範囲で営巣します。GBIFの月別観察記録では1月から4月にかけて観察数が多く(約77000~91700件)、7月から8月には減少(約45000~51000件)し、秋にかけて再び増加する傾向が見られますが、これは観察者による目撃記録であり、個体数や生息密度そのものを示すものではありません。

Aquila chrysaetosの観察記録の分布図
記録された場所 · GBIF
91,714
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
月別出現件数 · GBIF

行動と暮らし

継続的に同じ縄張りに留まる個体群と、季節ごとに移動する個体群が存在します。アラスカやカナダで繁殖する個体は、秋に食物供給が減少すると南へ移動しますが、アメリカ本土や カナダ南部で繁殖する個体群の多くは一年を通して同じ地域に留まります。

基本的に単独または夫婦単位で行動し、繁殖していない若い個体は小さな群れを作ることがあります。冬季には、悪天候や食物が非常に豊富な時期に成鳥同士が群れをなす場合もあります。

飛行時には他の多くのタカ類やハゲワシ類とは異なり、翼を体に対して水平に保つのが特徴です。ゆっくりとした力強い羽ばたきと滑翔・上昇気流を利用した滑空を交互に行い、平均飛行速度は時速45~51キロメートル(28~32マイル)、水平飛行での最高速度は時速約129キロメートル(80マイル)に達し、急降下時には時速約322キロメートル(200マイル)に達することもあります。飛行中には最大3.6キログラム(8ポンド)ほどの獲物を運ぶことができます。

繁殖期のペアは、うねるような飛行ディスプレイによって縄張りの境界を守ります。繁殖期の行動圏は西部アメリカで20~33平方キロメートルに及び、これを巡って優劣関係に基づいた縄張り防衛が行われます。

コミュニケーション

イヌワシはほとんど鳴かない鳥として知られ、声を出すのは主に繁殖期に限られます。モンタナ州西部の調査では、チャープ、シィアー、プサ、スコンク、クラック、ウォンク、ホンク、ヒスといった9種類の異なる鳴き声が確認されており、多くはヒナへの給餌やヒナのねだり行動に関連しています。

鳴き声そのものは弱々しく、高音でかすれた印象を与え、その体格に似合わない「子犬のような」声と評されることもあります。これらの声は主に親子間の接触を保つための呼びかけとして使われ、時には縄張りに侵入した個体への警告として、稀には配偶者間のやり取りとして発せられます。

縄張りの防衛には鳴き声ではなく、うねるような特徴的な飛行が視覚的な信号として使われます。これにより、隣接するペアに対して自分の縄張りの境界を示していると考えられています。

狩りと食性

イヌワシは優れた敏捷性と速さ、そして力強い足と鋭い鉤爪を組み合わせて狩りを行います。ペアで協力して狩りをすることも多く、一方が獲物を疲れさせるまで追い立て、もう一方が上空から急降下して仕留めるという分業が見られます。

食性の中心はノウサギやウサギ、ジリス、プレーリードッグ、マーモットといった小型から中型の哺乳類です。鳥類、爬虫類、魚類も少量ながら捕食対象となります。

時にはアザラシ類、ウシ科などの有蹄類、コヨーテ、アナグマといった大型の動物や、ガンやツルのような大型の飛翔性の鳥まで捕らえることがあり、自身の体格をはるかに超える獲物にも果敢に挑む柔軟性を示します。

捕らえた獲物を後で食べるために貯蔵することはほとんどなく、基本的にその場で食べ尽くします。

営巣と繁殖

イヌワシは一度結んだ配偶関係を長年にわたって維持することが多く、求愛では雌雄ともにうねるような飛行を見せ、雄が石や小枝を空中で落として急降下で捕らえる動作を何度も繰り返し、雌も同様に土のかたまりを落として捕らえる行動を見せます。繁殖期は地域によって異なり3月から8月に及びますが、定住性のペアは12月ごろから巣作りや求愛を始め、渡りをする個体群は繁殖地に戻る2月から4月中旬にかけて求愛を開始します。

営巣地は主に断崖の岩棚が好まれますが、樹木や河岸、人工構造物も利用されます。多くのペアが縄張り内に複数の巣を持ち、年ごとに使い分けながら毎年補修して再利用します。巣づくりや補修には4~6週間かかり、記録された最大の巣は高さ6.1メートル、幅2.59メートルに達しました。

雌は1回に1~4個(通常は2個)の卵を、3~4日おきに産みます。卵はくすんだ白色で、褐色や赤褐色の斑点が入ります。抱卵は主に雌が行い、期間は35~45日(平均42日)に及びます。孵化は数日おきに非同期で起こり、ヒナは孵化する約15時間前から卵の中で鳴き始め、最初のひびから完全に殻を破るまで約37時間かかります。

先に孵ったヒナは後から孵ったヒナより大きく育ち、時には弱い雛を殺してしまうこともあります。雌は孵化後およそ45日間ヒナを保温し、両親が給餌を行いますが、特に孵化直後の数週間は雄が食物の約80%(重量では約90%)を運ぶ主な役割を担います。巣立ちは45~81日齢で起こり(アイダホでは66~75日、スコットランドでは70~81日)、巣立ち後32~80日で親から独立します。性成熟に達し成鳥の羽衣を得るのは4~7歳頃です。

個体数と生態的役割

世界のイヌワシの個体数は17万から25万羽と推定され、繁殖ペア数は6万から10万組とされています。生息範囲は約1億4000万平方キロメートルに及び、タカ目の中ではミサゴに次いで2番目に広い分布域を持つ種です。

生態系の中では頂点に近い捕食者として、ノウサギやジリスなど被食者の個体数に影響を与える役割を担っています。また、食物や生息地をめぐってハクトウワシ、コヨーテ、カリフォルニアコンドル、オジロワシなどと競合し、縄張りをめぐってはハシブトガラス、ハヤブサ、シロハヤブサ、ケアシノスリなどとも競合関係にあると考えられています。

保全と脅威

イヌワシはIUCNレッドリストで「低危険種(Least Concern)」に分類されており、世界全体としては個体数がおおむね安定していますが、地域によっては減少や絶滅が記録されています。アメリカでは、ワシントン州とモンタナ州が「特別な懸念のある種」に、メイン州、ニューハンプシャー州、ニューヨーク州は「絶滅危惧種」に指定しています。

1962年にアメリカで「ハクトウワシ保護法」が制定される以前には、子羊や子ヤギを捕食するとの誤解から、主に航空機からの射撃によって約2万羽のイヌワシが駆除されました。しかし後の調査では、その食性の約70%がウサギ類であることが判明し、家畜への被害という主張の根拠が乏しいことが示されています。

現在の主な脅威としては、電線での感電死、コヨーテなどを対象とした鋼製トラップへの誤って捕獲されること、牧場主による毒物の使用、生息地の変化による餌動物の減少、そしてレクリエーション活動による繁殖・渡り・越冬期の攪乱が挙げられ、抱卵中に人が近づくと巣を放棄してしまうこともあります。

現在はアメリカの移住鳥法やワシントン条約(CITES)附属書IIによって保護されており、イギリスでは林業調査に基づき、約150年ぶりの再導入を目指して8か所の候補地が選定され、100万ポンドの資金支援を受けたプロジェクトが進められています。

保全状況

  1. LC
  2. NT
  3. VU
  4. EN
  5. CR

軽度懸念

文化的意義

古代ギリシャの宗教では、イヌワシはゼウスの聖鳥であり使者とされ、美少年ガニュメデスをオリンポス山へ運んだという神話も伝えられています。学名の「chrysaetos」はギリシャ語に由来し、力、高貴さ、威厳の象徴としての文化的重要性を強調する言葉で、その金色の羽色から太陽と結び付けられ、太陽を直視できると信じられていた時代もありました。ローマ神話でもユピテル(ゼウスに相当する神)の伴鳥として描かれています。

「eagle-eyed(鷲のような目を持つ)」という表現も、高い空から見渡すイヌワシの姿から生まれたとされ、神話の中ではゼウスのために最も美しい少年を探す役目を担ったという逸話も残っています。

現代においても、アメリカ合衆国魚類野生生物局はネイティブアメリカンの宗教的・文化的な儀式のために羽根を提供する「ナショナル・イーグル・リポジトリー」を運営しており、イヌワシへの精神的な敬意が今も続いています。また、一部の研究者は、イヌワシが家畜と競合するウサギ類を多く捕食することで、畜産業にとって有益な存在になり得ると指摘しています。

豆知識

  1. 野生で記録された最重量のイヌワシは、2006年にワイオミング州ブリッジャー・ティートン国立森林で放鳥された個体で、体重は7.7キログラムに達しました。
  2. 飼育下で計測された個体には、翼開長2.81メートル、体重12.1キログラムに達した例がありますが、これは鷹狩り用に育てられた不自然に重い個体によるものです。
  3. これまでに記録された最大の巣は、高さ6.1メートル、幅2.59メートルに達しました。
  4. ヒナは孵化のおよそ15時間前から卵の中で鳴き始め、卵に最初のひびが入ってから完全に殻を破って出てくるまで、約37時間かかります。
  5. 寿命は最長で48年に達した記録があります。

生態

食性

  • 肉食

行動

  • 捕食者
  • 単独性
  • 縄張り性
  • 渡り性

生息地

  • 林地
  • 山地
  • 草原
  • ツンドラ

写真

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後頭部からうなじにかけて金色がかった羽をもつ、濃い茶色の大型猛禽が翼を広げて飛んでいる姿写真: via iNaturalist, licensed under CC0 1.0.、CC0

出典GBIFiNaturalistWikidataWikipediaEncyclopedia of LifeAnimal Diversity WebAnAge