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クロコウジカビ

Aspergillus niger

シャーレの培地の上で黒色の粉状の分生子に覆われた、綿毛のようなクロコウジカビのコロニー写真: via iNaturalist, licensed under CC0 1.0.、CC0

ひと目でわかる

主な特徴
都市荒れ地
分類
門
Ascomycota
綱
Eurotiomycetes
目
Eurotiales
科
Aspergillaceae
属
Aspergillus
種
Aspergillus niger

クロコウジカビ(Aspergillus niger)は、強い酸性の環境でも生育を続けられる数少ないカビの一つで、この耐酸性ゆえに世界中でクエン酸をはじめとする工業原料を生産する主力の微生物として利用されています。

本種は子囊菌門(Ascomycota)ユーロチウム目コウジカビ科に属するコウジカビ属(Aspergillus)の一種で、Nigri節に分類されます。コウジカビ属のカビは土壌や水中、植物の表面、糞便、腐敗した有機物、さらには空気中にまで広く分布する、ごくありふれた菌類です。同属のカビは発芽後わずか数日で分生子(無性の胞子)を形成できるほど成長が速いことも知られています。

クロコウジカビが注目される理由は、代謝経路の多様性、分泌能力の高さ、そしてタンパク質を合成後に修飾する翻訳後修飾能力という独自の組み合わせにあります。これらの特徴が組み合わさることで、酸やタンパク質、生理活性物質を大量かつ効率的に生産できる工業微生物としての価値を生み出しているのです。

子実体と識別

クロコウジカビはキノコのような大型の子実体を持たず、顕微鏡サイズの糸状体(菌糸)が集まって形成するコロニーとして観察されます。識別のための最大の手がかりは、その旺盛な成長速度にあります。発芽してからわずか数日で分生子(無性生殖のための胞子)を形成し始め、これがコロニー表面を覆う特徴的な色をもたらします。

外見上の特徴だけでなく、生理学的な性質も同定の助けとなります。極端な酸性条件でも生育を続けられる耐酸性、豊富な代謝経路の多様性、そして高い物質分泌能力は、他の多くのカビと本種を区別する重要な手がかりです。ただし、これらの特徴は肉眼や簡単な観察だけで判別できるものではなく、培養や生化学的な検査を通じて確認されます。

分布と生息地

クロコウジカビは地球上のほぼすべての環境に生息する、非常に広域的な分布を持つカビです。土壌や腐った植物の残骸、住宅などの屋内環境に加え、腐敗した果物や野菜の表面からも頻繁に検出されます。

GBIFに登録された観測記録を月別に見ると、1月に713件、4月に667件と二つの高い値が見られ、7月(398件)にもやや高い記録が続きます。一方、12月は128件と最も少なくなっています。ただし、これらの数値はあくまで観測された記録の件数であり、個体数や生息密度、あるいは分布の全体像を示すものではない点に注意が必要です。

Aspergillus nigerの観察記録の分布図
記録された場所 · GBIF
713
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
月別出現件数 · GBIF

生態と関わり

クロコウジカビは分解者であると同時に、農作物や貯蔵中の青果物に対する病原菌としても働きます。ピーナッツやブドウ、タマネギなどの豆類・果物・野菜で黒色のカビ感染を引き起こし、これが食品汚染の一般的な原因となっています。本種はpH、湿度、温度の変化に対する耐性が高く、摂氏15度から53度という広い温度域で増殖できるため、収穫後の腐敗(ポストハーベスト・ディケイ)を引き起こしやすく、食品産業に大きな経済的損失をもたらすことがあります。

植物への感染は種子の発芽率低下や実生の出芽不良、根や茎の伸長阻害を引き起こし、成熟前に植物を枯死させることもあります。特にタマネギや観賞植物ではすす病(ソーティモルド)を発生させることが知られています。

クロコウジカビはヒトに対しても病原性を示すことがあります。ありふれた環境に存在するため、その分生子は日常的に吸入されており、免疫が低下した人や喘息・囊性線維症などの既存の肺疾患を持つ人では、アスペルギルス症(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、副鼻腔炎、慢性肺アスペルギルス症など)を引き起こすことがあります。園芸従事者はピート(草炭)の粉塵を吸入する機会が多く、この粉塵にはクロコウジカビの分生子が豊富に含まれているため、感染リスクが比較的高いとされています。ただし、他のアスペルギルス属(Aspergillus flavusやAspergillus fumigatus、Aspergillus terreusなど)と比べると、本種が肺炎を引き起こす報告は少ないとされています。

利用と文化史

クロコウジカビは絶対好気性菌で酸素を必要とし、摂氏6度から47度という幅広い温度域で生育できます。最適な生育温度は35〜37度、pHは1.5から9.8まで耐えられるほか、乾燥した環境でも増殖できる好乾性の性質を持ち、湿度90〜100%の環境にも適応します。工業的な培養では、小麦ふすまや砂糖パルプ、米ぬか、コーンフラワーなどの農業副産物を用いた固体発酵(SSF)と、密閉した発酵槽内で液体培地を使う液体発酵(SmF)の二つの方法が用いられ、収量が高くコストも低いSSFのほうが広く採用されています。

クロコウジカビの最大の産業的価値は、クエン酸(食品添加物E330)とグルコン酸(E574)の生産にあります。糖分とミネラル塩を豊富に含み、pH2.5〜3.5に調整した培地でクロコウジカビを培養する発酵法により、年間100万トンを超えるクエン酸が生産されており、これは飲食品の風味付けや酸度調整、微生物の増殖抑制、医薬品など幅広い用途で需要されています。これらの生産株は世界保健機関(WHO)によって一日摂取量が認められ、アメリカ食品医薬品局(FDA)からも「一般に安全と認められる(GRAS)」との評価を受けています。また、天然の食品用色素の新たな供給源としても検討されています。

クロコウジカビは栄養を得るために多様な酵素を分泌しており、これらは工業的にも利用されています。グルコアミラーゼは高フルクトースコーンシロップの製造に、ペクチナーゼはシードルやワインの清澄化に使われます。複雑な糖を分解するα-ガラクトシダーゼは、腸内ガスを抑える製品「Beano」などに配合されています。グルコースオキシダーゼはβ-D-グルコースへの高い親和性を持つため血糖センサーの開発に利用され、フルクトシルトランスフェラーゼはフラクトオリゴ糖(FOS)の製造に用いられます。FOSは低カロリーで腸内の病原性微生物の増殖を抑えるプレバイオティクスとして、機能性食品に加えられています。

豆知識

  1. 顕微鏡下では暗褐色でざらざらした分生子と褐色の分生子柄が観察され、ポテトデキストロース寒天(PDA)やCzapek Yeast Agar、Malt Yeast Agarなどの培地を用いた培養検査によって同定されます。
  2. 耳道に感染すると耳真菌症(otomycosis)を引き起こすことがあり、一時的な聴力低下や痛みを伴い、重症化すると外耳道や鼓膜を損傷することもあります。
  3. クロコウジカビの分生子は高度58キロメートルの上空でも検出されており、大気中を非常に広範囲に漂うことができます。
  4. 精油や植物抽出物、合成化合物に対する感受性が科学や保健科学の分野で研究対象となっています。
  5. 培養にはポテトデキストロース寒天が最も一般的に使われますが、Czapek-Dox寒天やリグノセルロース寒天など多様な培地でも生育できます。

生態

生息地

  • 都市
  • 荒れ地

写真

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シャーレの培地の上で黒色の粉状の分生子に覆われた、綿毛のようなクロコウジカビのコロニー写真: via iNaturalist, licensed under CC0 1.0.、CC0

出典GBIFiNaturalistWikidataWikipediaEncyclopedia of Life