Auricularia auricula-judae という学名は、裏切り者ユダがニワトコの木で首をつったという言い伝えに由来しています。担子菌類キクラゲ目に属するこの菌は、赤褐色でゼリー状の耳形をした子実体を枯れ木の上に形成します。
この菌は主にニワトコ(Sambucus nigra)をはじめとする落葉樹の枯れ木や枯れ枝に生育し、腐生菌として、あるいは弱い寄生菌として木材を分解します。分布はヨーロッパに限られており、かつて考えられていたような世界的な広がりは持たないことが分子系統解析によって明らかになっています。
食用としての評価はさほど高くありませんが、16世紀から19世紀にかけて喉の痛みや目の炎症を治す民間薬として広く用いられ、文学作品にもその名残を残しています。姿と歴史の両面から、この菌には知られざる物語が詰まっています。
子実体と識別
最も確実な識別点は、枯れ木に側生する、耳やカップのような形をしたゼリー質の子実体です。大きさは幅9cmほど、厚さは3mmに達し、基部はごく短い柄状になるか、直接木に付着します。生の状態では弾力があり柔軟ですが、乾燥すると硬く脆くなります。
上面は紫色を帯びた赤褐色で、細かい灰色の微毛に覆われています。若い個体では表面が滑らかですが、成長するにつれて波状のしわや折り目が現れ、色も次第に濃くなります。下面はより明るい灰褐色で滑らかですが、しわや脈状の模様が入り、さらに耳のような印象を強めます。まれに色素を持たない純白の個体も見られ、かつてはAuricularia lacteaとして別種扱いされていましたが、通常の色をした個体と混生して発生することから、単なる無色素型とされています。
顕微鏡的特徴としては、胞子は長さ15〜22μm、幅5〜7μmのソーセージ形(アラントイド型)で、担子器は円柱形で長さ65〜85μm、幅4〜5.5μmあり、内部に3本の隔壁を持ちます。上面の毛は長さ100〜150μm、直径5〜7.5μmで、透明で厚い壁を持ち、先端は丸みを帯びるかやや尖っています。
ヨーロッパで類似する種としては、オークに生え、濃い灰色からほぼ黒色の子実体を持つAuricularia cerrinaが知られています。アジアに分布するAuricularia heimuerは非常によく似ており、長年混同されてきましたが、担子器と胞子がより短いことで区別できます。北米のAuricularia angiospermarumも同様に担子器と胞子が短く、顕微鏡観察によって初めて確実に見分けられます。
分布と生息地
この菌はヨーロッパ全域に広く分布していますが、それ以外の地域には自然分布しないことが分かっています。かつては世界中に見られる変異の大きい種と考えられていましたが、DNA配列に基づく分岐学的解析により、ヨーロッパ以外の個体群は別種であることが判明しました。中国や東アジアで栽培されている「A. auricula-judae」は実際にはAuricularia heimuer、一部はA. villosulaであり、北米の広葉樹上の個体群はAuricularia angiospermarum、針葉樹上のものはAuricularia americanaとされています。
生育場所は広葉樹や低木の枯れ木や枯れ枝で、特にニワトコ(Sambucus nigra)を好みます。Acer pseudoplatanus、ブナ(Fagus sylvatica)、セイヨウトネリコ(Fraxinus excelsior)、Euonymus europaeusなどにもよく見られ、針葉樹上に発生することは非常に稀です。古くなった枝を好んで白色腐朽を引き起こし、単生することが多いものの、群生や束生することもあります。
胞子は子実体の下面から放出され、1時間あたり数十万個に達することもあります。乾燥によって重量の90%を失った後でも、少量の胞子放出が続くことが確認されています。子実体は一年を通じて見られますが、最も多く発見されるのは秋です。
GBIFの月別観察データでは、1月に13,883件、10月に13,899件、11月に12,785件と観察数が多く、6月から8月にかけては2,944〜3,794件程度まで減少する傾向が見られます。これは秋から冬にかけて発見されやすいという傾向と一致しますが、あくまで観察記録の件数であり、個体数や分布の全体像を示すものではない点に注意が必要です。

利用と文化史
食用としての評価は歴史的に低く、その柔らかいゼリー状の質感は「骨の入ったゴム消しを食べているような」と評されたこともあります。19世紀のイギリスでは食用菌として扱われていませんでしたが、ポーランドでは一般的に食用にされてきたとされています。よく似たAuricularia heimuerは東アジア料理で広く使われ、しばしばA. auricula-judaeと誤認されてきました。味は淡く、乾燥させて水に戻すと3〜4倍に膨らみます。生食はできず、必ず十分に加熱調理する必要があります。乾燥品100gあたりのエネルギーは1,500キロジュール(370キロカロリー)、タンパク質10.6g、脂質0.2g、炭水化物65g、灰分5.8gで、粉末にして煮物やスープの水分吸収剤として使われることもあります。
医薬としての利用は16世紀から記録されています。1597年の本草学者ジョン・ジェラードは、牛乳で煮出したりビールに浸したりした汁を喉の痛みの治療に用いることを勧めました。1601年のカロルス・クルシウスや1640年のジョン・パーキンソンも同様にうがい薬としての利用を記しており、1694年のジョン・ペチーは牛乳で煮る、または酢に浸すことで口や喉の炎症、さらには目の病気にも効くと記録しています。吸水性を活かした収斂剤としての利用や、スコットランドでの喉の痛みへのうがい、アイルランドでの黄疸治療に牛乳で煮て用いた記録も残っています。こうした薬用としての利用は少なくとも1860年まで続き、当時ロンドンのコヴェント・ガーデン市場でも売られていましたが、この時点でもイギリスでは食用とはみなされていませんでした。
その名前と姿は文学にも影響を与えました。クリストファー・マーロウの戯曲『マルタ島のユダヤ人』では、登場人物イタモアが「ユダがニワトコの木の下で首をつった際にかぶっていた帽子」について語る場面があります。また、エミリー・ディキンソンの詩「The Mushroom is the Elf of Plants」で描かれる「究極の裏切り者」としてのキノコ像も、ユダの伝説にまつわるこの菌の俗称から着想を得たものと考えられています。
豆知識
- 中国では7世紀ごろから意図的な栽培が行われていたとされ、記録に残る中でも最も古くから栽培されたキノコの一つに数えられます。
- エミリー・ディキンソンの詩に登場する「究極の裏切り者」としてのキノコ像は、この菌にまつわるユダの伝説から着想を得たと考えられています。
- 乾燥した子実体は重量の90%を失っても、なお少量の胞子を放出し続けることが確認されています。
生態
生息地
- 森林
- 林地



