オウシュウシラカバは、モロッコの高地からヨーロッパ全域、シベリア、さらにはアラスカやカナダにまで及ぶ、驚くほど広い分布域を持つ樹木です。
Betula pendula はカバノキ科に属する落葉広葉樹で、IUCNのレッドリストでは「低危険種(Least Concern)」に分類されています。分布域の広さと環境への適応力の高さが、この評価の背景にあります。
北欧の神話や文化の中で純潔や再生の象徴とされてきたこの木は、白い樹皮と繊細に垂れる枝によって古くから人々を魅了してきました。その姿と生態の両面から、ヨーロッパを代表する樹木の一つとして知られています。
識別と外見
最も分かりやすい特徴は樹皮の変化です。若い木の樹皮は金褐色ですが、成長するにつれて紙のような薄い組織が表面に生じ、剥がれ落ちることで白色に変わります。老木になると樹皮は厚くなり、黒っぽく不規則な裂け目が入ります。
樹高は通常15〜25メートルに達し、記録的な個体では31メートルに達することもあります。幹は細く、直径は多くの場合40センチメートル未満です。若い枝には白っぽい樹脂の突起があり、枝先は細く、無毛で、しばしば下垂します。
葉は長さ3〜7センチメートルの三角形で、基部は幅広く葉柄に対してほぼ直角を成し、先端は細く尖り、縁には粗い重複した鋸歯があります。若葉は樹脂で粘つきますが、やがて乾いて小さな白い鱗片状になります。秋には早くから黄変して落葉します。雄花と雌花が同じ木につく雌雄同株で、雄花穂は冬の間から見られ、雌花穂は春に葉が開いた後に発達します。真夏には風媒によって授粉し、1つの花穂は平均166万個もの花粉粒を放出します。種子は翼を持つ長さ1〜2ミリメートルほどの小さなもので、熟すと花穂全体がほどけて風によって広く散布されます。
よく似たダウニーバーチ(Betula pubescens)とは、葉や若枝の毛の有無で区別できます。オウシュウシラカバの葉や若枝は無毛であるのに対し、ダウニーバーチには毛があります。また、葉の基部が葉柄に対してほぼ直角になる点も本種の特徴で、ダウニーバーチでは基部が丸みを帯びます。遺伝的には両種は大きく異なりますが、まれに交雑することがあります。
分布と生息地
オウシュウシラカバの自然分布は、西ヨーロッパから東はカザフスタン、シベリアのサハ共和国、モンゴル、中国の新疆ウイグル自治区まで広がり、南はカフカス山脈、イラン北部、イラク、トルコの山地にまで達します。北アフリカのモロッコ北部にも自生しており、南ヨーロッパやモロッコでは主に高地でのみ見られます。
生育環境は幅広く、標高0〜350メートルの放棄された植栽地や道端、湿地の縁、荒れ地から、標高500〜2300メートルの温帯広葉樹林まで及びます。光を好む先駆樹種として裸地や火災跡地に真っ先に定着し、乾燥した酸性土壌を好んでヒースランドや山腹、岩場にも生育します。大気汚染への耐性が高いため、工業地帯や過酷な環境への植栽にも適しています。
北米にも「ヨーロピアン・ホワイトバーチ」として導入され、ケンタッキー州、メリーランド州、ワシントン州、ウィスコンシン州では侵略的とされています。カナダの一部でも野生化し、局地的に侵略的な広がりを見せています。
GBIFの月別観察記録では、観察数は6月から8月にかけて大きく増加し、7月に約15万3千件と最も多くなっています。ただしこれは観察が活発になる時期を示す目安に過ぎず、生息数や分布域全体の実態を表すものではありません。

生態と関わり
オウシュウシラカバの樹冠は比較的開けており、地表まで十分な光が届くため、下層にはサクラソウやスミレ、ブルーベル、イチリンソウ属の一種、カタバミ属の一種などの草花、コケモモやツルコケモモ属の一種といった小型の低木が育ちます。こうした林床の植物は多くの昆虫を引き寄せます。
この林にはズアオアトリやヨーロッパビンズイ、ムシクイ類、サヨナキドリ、ヨーロッパコマドリ、ヤマシギ、ベニヒワ、ヨーロッパアオゲラなどの鳥類も見られます。枝にはTaphrina betulinaという真菌の寄生によって生じる「魔女の箒」と呼ばれる奇妙な枝の塊が見られることがあり、老木は腐朽菌のFomitopsis betulinaによって枯死することが多く、倒れた枝は林床で速やかに分解されます。酸性で栄養に乏しい土壌では、ベニテングタケ(Amanita muscaria)と相利共生の関係を結ぶことが多く、Leccinum scabrumやアンズタケ(Cantharellus cibarius)も共生菌として知られています。土壌中の微小動物も菌根の菌糸網を広げる助けとなり、養分吸収を高めています。
ドイツでは本種とダウニーバーチに依存する昆虫が約500種確認されており、そのうち106種が甲虫、105種が鱗翅目で、133種はカバノキ属にほぼ限定的に依存しています。植栽木では「バーチ・ダイバック病」が発生しやすい一方、天然更新した木は耐性が高いとされます。北米ではブロンズカバキクイムシ(Agrilus anxius)による被害が深刻で、本種はこの害虫に対する自然な抵抗力を持っていません。
利用と人との関わり
オウシュウシラカバはフィンランドの国樹で、若い枝葉の束「ヴィヒタ(vihta/vasta)」はサウナで体を軽く叩くために使われます。観賞用として公園や庭園にも広く植栽され、ロサンゼルスやシドニーのような温暖な地域でも見られます。北欧では木材やパルプなど林産物の生産にも用いられ、材は淡い色合いで、家具や合板、突き板、寄木、スキー板、木製の調理器具、木工旋盤製品などに加工されます。よく燃えるため薪にも使われますが燃焼が速いのが特徴です。樹皮の板は屋根板に、細く割った樹皮は編み物や樺皮靴、小さな容器などの手工芸品に利用され、かつては鞣し革の材料にもされました。樹皮を加熱して得られる樹脂は優れた耐水性の接着剤や火起こしに使われ、若い樹皮の薄いシートは湿っていても燃えやすい性質を持ちます。かつて樹皮の採取が広く行われすぎたため、カール・リンネがその存続を憂慮したという記録も残っています。
枝は競馬用の障害物や箒(ビーソム)の材料にもなります。春には多量の樹液が幹を上昇し、これを採取して糖度約1%の樹液として新鮮なまま飲んだり、煮詰めたり、発酵させて「バーチワイン」にすることもあります。樹皮の外層には最大20%にも及ぶベツリンという物質が含まれ、芽から得られる精油には α-コパエンやゲルマクレンD、δ-カジネンなどが多く含まれています。カナダでは「Itulatek」という標準化アレルゲン抽出物が、カバノキやハンノキ、ハシバミの花粉によるアレルギー性鼻炎の検査・減感作用に用いられており、ヨーロッパではBetula pendulaとBetula pubescensの抽出物を組み合わせた製剤が表皮水疱症の治療薬として承認されています。
北欧全域の神話や伝承では、誕生・純潔・愛・再生の象徴として語られてきました。アイルランド神話では、ディルムッドとグラーニアの恋物語の中でこの木を使った寝床が登場します。スラブ神話では純潔や再生、春の訪れの象徴とされ、古代ケルト神話では再生と清めの象徴とされて、樺の枝束は旧年の悪霊を追い払うために使われ、今でも庭を「清める」ためのビーソム(箒)として使われています。園芸品種も多く、木目が波打つ「カレリカ(カーリーバーチ、visakoivu)」は木彫りや突き板として高く評価され、深い切れ込みの葉と枝垂れの「ラキニアタ」、暗紫色の葉を持つ「プルプレア」、直立した幹と枝垂れの「トリスティス」、密に枝垂れる「ヤンギー」など複数の品種が英国王立園芸協会のガーデン・メリット賞を受けています。
保全と脅威
Betula pendula はIUCNレッドリストで「低危険種(Least Concern)」に分類されています。広い分布域と多様な環境への高い適応力から、絶滅のリスクは低いと評価されています。
分類上の異名であるBetula oycowiensis(B. oycoviensisとも表記)は、かつてレッドリストで「危急種(Vulnerable)」として掲載されていましたが、現在ではオウシュウシラカバの亜種B. pendula subsp. pendula の異名とされています。同様に、以前は野生絶滅と考えられていたBetula szaferiも、現在では変異遺伝子の影響で生育が弱く結実の多い、オウシュウシラカバの一形態と見なされています。
保全状況
- LC
- NT
- VU
- EN
- CR
軽度懸念
豆知識
- フィンランドの国樹であり、春に採れる糖度約1%の樹液は、そのまま飲んだり煮詰めたり、発酵させて「バーチワイン」にされることがあります。
- 樹皮の外層には最大で20%にも達するベツリンという物質が含まれ、研究材料として利用されています。
- カレリア地方で「visakoivu(カーリーバーチ)」と呼ばれる品種は木目が波打つように入り組み、木工品や象嵌細工で高く評価されています。
- 北欧やケルト、スラブの神話では純潔や再生、春の訪れを象徴する木とされ、庭を清めるためのビーソム(箒)にも使われてきました。
- 分類学上の異名であるBetula szaferiは、かつて野生絶滅種とされていましたが、実際には変異遺伝子を持つオウシュウシラカバの一形態にすぎないことが分かっています。
生態
生息地
- 湿地
- 森林
- 山地
- 荒れ地
生育型
- 高木



