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Clathrus archeri

Clathrus archeri

記録された一般名なし

淡い赤色の腕を放射状に広げ、暗緑色の粘液状の胞子塊をまとった、クラスルス・アルケリの成熟した子実体写真: via iNaturalist, licensed under CC0 1.0.、CC0

ひと目でわかる

主な特徴
森林林地都市荒れ地
分類
門
Basidiomycota
綱
Agaricomycetes
目
Phallales
科
Phallaceae
属
Clathrus
種
Clathrus archeri

白く丸い「卵」のような姿から一転、わずか1日ほどで4~8本の赤い腕が四方に広がり、腐った肉のような強烈な悪臭を放つ――Clathrus archeriは、菌類の中でもひときわ異様な変貌を見せる種です。腕の表面には暗緑褐色の粘液状の胞子塊(グレバ)がまとわりつき、これがハエなどの昆虫を呼び寄せる仕組みになっています。

本種は菌界・担子菌門・ハラタケ綱・スッポンタケ目に属し、スッポンタケ科(Phallaceae)の一員です。1859年にタスマニアで採集された標本に基づき記載され、現在の学名Clathrus archeriが与えられたのは1980年のことです。原産地とされる地域から他の大陸へも分布を広げつつあり、その生態と広がり方の両面で注目すべき菌類といえます。

子実体と識別

最も分かりやすい特徴は、白い卵状の若い姿から赤い腕を持つ成熟した姿へと変化する、二段階の成長様式です。若い段階では、高さ34センチほどの白い球形から卵形の塊が土から現れ、基部には糸状の菌糸が伸びています。この「卵」が破れると、48本の淡赤色の腕が現れ、それぞれ最大10センチほどまで伸びます。

腕の上面には暗緑褐色の粘液状のグレバ(胞子塊)が付着しており、乾くと黒色に変わります。この強い腐敗臭は、いわゆる屍臭花(サプロミオフィリー)に似た戦略で、ハエなどの昆虫を引き寄せるための収斂進化の結果と考えられています。胞子は楕円形で表面が滑らかで、大きさは3.56×1.52マイクロメートルです。

見た目が似る種としてAseroe rubraが挙げられますが、こちらは全体が小さく、胞子塊が腕の中央部に限られる点で区別できます。一方、Clathrus archeriは全体が大きく、腕全体にグレバが広がり、腕自体も太く基本的には互いに癒合していません(先端がまれに癒合することはあります)。培養実験では、26℃・pH6.0のコンポスト寒天培地で最も生育が良く、4週間にわたり1日あたり最大2.9ミリメートルの速度で放射状に菌糸体が広がることが確認されています。

菌糸体は最初白色ですが、やがて桃色を帯びるようになります。菌糸の表面にはシュウ酸カルシウムの結晶が分泌され、これが疎水性の保護膜として働いていると考えられています。

分布と生息地

原産地については議論があります。研究によってはアフリカ・オーストラリア・ニュージーランドが原産地とされますが、ニュージーランドの菌学者ジェリー・クーパーは、同国へはオーストラリアから持ち込まれたと述べ、さらに両国のいずれも本来の原産地ではない可能性を指摘しています。1930年代当時、両国での本種は珍しい存在だったとされています。

ヨーロッパへは20世紀初頭に到達したとみられ、最初の記録は1914年の英国とフランスです。オーストラリア産の羊毛の輸入や第一次世界大戦の物資に混じって持ち込まれたと推測されています。そこからベルギー、続いてオーストリア、ドイツ、スイス、イタリアへ広がり、さらにボスニア・ヘルツェゴビナ、チェコ、クロアチア、ポーランド、スロベニア、ルーマニア、ウクライナでも記録されています。南米やマダガスカルでも確認されており、国際自然保護連合(IUCN)の定義に照らせば侵略的外来種とみなされる可能性があります。

生育地としては、腐生菌としてマルチ材や森林の落葉層など様々な土壌タイプに現れますが、石灰質の土壌は避ける傾向があります。オーストラリアやニュージーランドでは、ユーカリやナンキョクブナ属の木材残渣の上で発生が観察されており、庭園や公園といった都市部でも、木材チップやマルチ材の流通を通じて広がっているとみられます。酸性で湿った土壌を好む傾向があります。

GBIFへの観測報告数は9月から11月にかけて大きく増加し、10月に4134件と最も多く記録されています。これはあくまで観測された地点の記録であり、個体数や本来の分布範囲全体を示すものではありませんが、この時期に子実体がよく見つかる傾向がうかがえます。

Clathrus archeriの観察記録の分布図
記録された場所 · GBIF
4,134
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
月別出現件数 · GBIF

生態と関わり

Clathrus archeriは腐生菌として、マルチ材や森林の落葉層、倒木といった死んだ有機物を分解して生活しています。土壌の種類には幅がありますが、石灰質を避け、酸性で湿った条件を好む傾向があります。

本種の胞子散布は昆虫に大きく依存しています。腕を覆う暗緑褐色のグレバから放たれる腐肉のような悪臭は、クロバエ科(Calliphoridae)、イエバエ科(Muscidae)、ヤドリバエ科に近縁なニクバエ科(Sarcophagidae)といったハエ類を強く引き寄せます。これらの昆虫はグレバを摂食し、体内を通過した胞子を別の場所で排出することで、菌の分布を広げる役割を担っています。

この仕組みは、腐敗臭で昆虫を誘う一部の花(いわゆる屍臭花)と類似した戦略であり、無関係な系統同士が似た生存戦略に至る収斂進化の一例とされています。

利用と文化史

本種を儀式的な目的で利用したという確かな証拠は見つかっていません。むしろ多くの民間伝承において、悪臭を放つキノコ類は避けられるか、腐敗や不吉の象徴として扱われてきました。突如卵から赤い腕を広げ、屍臭を放つClathrus archeriの異様な姿は、こうした伝承的なイメージと重なる部分があります。

豆知識

  1. 属名Clathrusはラテン語で「格子」や「籠」を意味し、この属の多くの種に見られる腕の格子状の配置にちなんで名付けられました。
  2. 種小名のarcheriは、19世紀半ばにタスマニアで基準標本を採集した博物学者兼建築家、ウィリアム・アーチャー(1820~1874)にちなんでいます。
  3. 英国をはじめ欧州の多くの地域では、悪魔の爪のような姿から「devil's fingers(悪魔の指)」という通称で呼ばれています。
  4. 腐敗臭を放つキノコの多くが忌避される存在として語られてきた民間伝承の中で、本種の不気味な見た目もそうしたイメージと結びつけられてきました。

生態

生息地

  • 森林
  • 林地
  • 都市
  • 荒れ地

写真

写真20枚
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淡い赤色の腕を放射状に広げ、暗緑色の粘液状の胞子塊をまとった、クラスルス・アルケリの成熟した子実体写真: via iNaturalist, licensed under CC0 1.0.、CC0

出典GBIFiNaturalistWikidataWikipedia