マダコ(Octopus vulgaris)は、頭足類の中でもっとも研究が進み、もっとも知能が高いとされる種のひとつです。軟体動物門・頭足綱・八腕形目に属し、東大西洋では地中海や黒海、イギリス南岸から南アフリカ南岸まで、さらにアゾレス諸島やカナリア諸島、カーボベルデ諸島にも生息し、西大西洋でも広く見られます。
保全状況は軽度懸念(危急でない)とされており、個体数に差し迫った危機はありません。瓶の蓋を開けたり迷路を学習したりする知性、そして周囲に溶け込む擬態能力は、この種を読み解く価値のある生き物にしています。
識別と外見
マダコを見分ける最大の手がかりは、周囲の環境に応じて自在に体色や質感を変化させる能力です。外套長は最大25センチメートルほどですが、腕を広げると全長は1メートルに達し、体重は最大9キログラムまで成長します。寿命は1〜2年と短命です。
体は柔らかく骨格を持たず、8本の腕にはそれぞれ吸盤が並びます。皮膚の色や質感、姿勢を変えることで岩や砂地に溶け込む能力は、他の頭足類の中でも際立っています。
知能の高さも識別上の重要な特徴で、明るさ、大きさ、形、縦横の向きなどを識別する訓練実験が行われており、個体を見分けたり瓶の蓋を開けたりする行動が観察されています。海藻や貝殻、石を集めて「庭」のように住処を飾る行動も知られ、これが1969年のビートルズの楽曲「Octopus' Garden」の着想になったとも言われています。
分布と生息地
マダコは熱帯から亜熱帯、温帯にかけての海域に世界的に分布し、極域や亜極域には生息しません。水深100〜150メートルほどまでの沿岸域や大陸棚上部に暮らし、多くは水深200メートルより浅い岩礁性の海底を好みます。
塩分濃度はおおよそ1リットルあたり30〜45グラムの範囲で見られ、好むのは36グラム前後です。水温はセ氏15〜16度前後を好み、水温が高くなる季節にはより深い層へ移動して暑さを避けることが知られています。
観察記録の月別件数には夏場に多く冬にかけて減る傾向が見られますが、これはあくまで観察記録の分布であり、個体数や完全な分布域を示すものではない点に注意が必要です。
垂直方向への移動は酸素の取り込みや代謝の要求と関係しており、海底を這って移動する際には安静時のおよそ2.4倍の酸素摂取が必要になるとされています。

行動と暮らし
マダコは基本的に単独性で縄張りを持ち、同じくらいの大きさの個体同士が近くに住み着く傾向があります。水槽内で複数個体を飼育すると、互いに距離を置いて自分の住処を確保しようとします。この個体主義的な性質が崩れるのは交尾と産卵のときだけで、産卵後の抱卵さえも雌は単独で行います。
夜行性で、日中は隠れ家に留まり、夕暮れに狩りに出かけて夜明けに戻るという生活リズムを持ちます。日中にも短時間の摂食行動が見られることがあります。住処への執着度には個体差があり、長期間同じ穴に留まる個体もいれば、数日のうちに何度も住処を変える個体もいます。
地中海のカタルーニャ沿岸(バニュルスやポール・ヴァンドルの周辺)では、季節的な垂直移動が観察されています。早春には大型個体が産卵のために沿岸へ近づき、雌は夏の間に姿を消して産卵・抱卵ののち死んでしまいます。晩夏以降は大型個体群の大半が雄となり、秋から初夏にかけて沿岸を離れます。未成熟な個体は晩春に浅瀬へ入り込む、という世代交代のパターンが見られます。
狩りと食性
マダコは夕暮れ時に狩りを始める能動的な捕食者で、カニやロブスター、二枚貝などの甲殻類・貝類を好んで捕えますが、捕らえられるものであればほぼ何でも食べます。体色を周囲に溶け込ませて獲物に気づかれないようにし、油断した獲物に飛びかかって捕らえる狩りの手法を取ります。
捕えた獲物は強靭な嘴を使って貝殻を割ったり殻を突き破ったりして食べ、さらに毒を用いて獲物を弱らせることも知られています。孵化したばかりの幼体はしばらくプランクトンとして浮遊生活を送りながら能動的に捕食を行い、体重が約0.2グラムに達すると海底での生活に移行します。
繁殖と生活史
マダコの繁殖形態は乱婚的(ポリギナンドリー)で、雄は雌に接近し、最初は拒まれても最終的には受け入れられます。交尾では雄が雌の外套腔に交接腕(ヘクトコチルス)を挿入して精莢を渡し、数時間にわたって続くこともあります。同じ雌雄のペアが1週間ほど繰り返し交尾する一方、雄も雌も複数の相手と交尾する乱婚的な繁殖システムを取ります。産卵直前の雌だけが一貫して雄を拒むようになります。
受精は輸卵管腺で行われ、卵は粘液とともに紐状につながれて基質に固定されます。産卵は浅い水域で行われ、岩場の穴や隙間、サンゴ礁のほか、砂泥底では空になった貝殻や人工物の中に卵が産みつけられることもあります。熱帯・亜熱帯域では一年を通して産卵が見られ、地中海沿岸では12月から9月にかけて、特に春に産卵のピークがあるとされています。
一度の産卵で産む卵の数は10万から50万個にのぼります。雌は産卵から孵化まで4〜5か月にも及ぶ抱卵期間の間、卵から離れることはほとんどなく、その間ほとんど摂食しません。腕の先で卵を掃除したり漏斗から水流を送ったりして卵の世話を行い、外敵を追い払います。この繁殖は一生に一度きりで、雌は孵化を終えると産卵前の体重の三分の一を失った状態でまもなく死んでしまいます。
保全と脅威
マダコの保全状況は軽度懸念とされ、現時点で差し迫った絶滅の危機はないとされています。一方で、過剰漁獲によって個体群の増加が脅かされる可能性が指摘されています。
実際に、アフリカ北西沿岸ではボトムトロール漁によって年間2万トンを超える規模で大量に漁獲されており、漁業への依存度が高い種でもあります。
文化的意義
マダコは古代ミノア・クレタ文明やギリシャ文化の美術や神話に深い痕跡を残しており、多頭のヒュドラーや人を石化させるメドゥーサといった伝説上の怪物の原型になったとも言われています。
ポリネシアには、クペという男の漁具を盗んだタコを追いかけて35日間、2,400マイルもの距離を航海した末に新しい島(ニュージーランドの北島とされる)を発見し、マオリ族の祖先になったという伝承が残されています。
漁業資源としても重要で、1975年には約12万1,000トン、1976年には約13万7,000トンのマダコが漁獲されたという記録があります。
豆知識
- 太平洋岸北西部の先住民族の間では、タコは知性を持つトリックスター(いたずら者)の生き物として信じられていました。
- 日本など一部の国では、タコは癒やしの力を持つ存在として表象されてきました。
写真
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生態と分類
分類
- 門
- Mollusca
- 綱
- Cephalopoda
- 目
- Octopoda
- 科
- Octopodidae
- 属
- Octopus
- 種
- Octopus vulgaris
出典
- GBIF Species names and classification
- iNaturalist Photos
- Wikidata Common names and conservation status
- Wikipedia Summary extract
- Animal Diversity Web Animal habitat, behavior and diet



