家畜ガチョウのほとんどの品種の祖先となった大型の水鳥です。紀元前1360年ごろにはすでに家畜化されていたとされ、人との関わりが非常に古い鳥です。
Anser anser はカモ科ガン属の模式種で、灰褐色と白の斑模様の羽毛、橙色のくちばし、ピンク色の脚が特徴です。体長は74〜91cmに達します。
分布域は約におよび、旧北区のユーラシア大陸を中心に、北アフリカの一部にも広がります。北方の個体群は冬に南へ渡りますが、多くは一年中同じ地域にとどまるようになっています。レッドリストでは最も懸念が小さい「低懸念」に分類されています。
識別と外見
最も見分けやすいのは、橙色のくちばしとピンク色の脚、そして大きな体つきです。ハイイロガン属の中では最大で、がっしりした胴体に太く長い首と大きな頭を持ちます。
体長は74〜91cm、翼の長さは41.2〜48cm、翼を広げた幅は147〜180cmです。体重は2.16〜4.56kgの範囲で、平均は約です。雄は雌より大きく、東方の亜種 Anser anser rubirostris ではその差がより顕著です。
体色は全体に灰褐色で、頭は濃い色、胸と腹は淡い色です。胸と腹には黒い斑点が多少入ります。飛んでいるときや地上で翼を広げたときには、淡い灰色の前翼と尻が目立ちます。上側の脇には白い線が通っています。
幼鳥は胸や腹の黒い斑点が少なく、脚が灰色です。成鳥は首の羽に蛇腹のような折り目の模様があり、年齢を見分ける手がかりになります。
分布と生息地
旧北区に広く分布し、北はアイスランドやスカンジナビア半島から、東はアジアを横断して中国まで繁殖します。アジアの個体群は、冬にアゼルバイジャン、イラン、パキスタン、インド北部、バングラデシュへ渡ります。日本には冬にごくまれに渡来します。
繁殖期には、低地の湿地や沼沢地、植物の多い湿原、沖合の小島を利用します。葦、イグサ、ヒース、低木、ヤナギの茂みなど、地表を覆う植生を好みます。冬は塩性湿地、河口、干潟、淡水の湿地、畑や牧草地に広がります。夜になると海岸の砂州や河口の干潟、人里離れた湖に移動する群れもあります。
1950年代以降の冬の気温上昇により、北部や中部ヨーロッパで繁殖し、渡りの距離が短くなったり定住したりする個体が増えました。越冬地が繁殖地に近くなった結果、春には以前より早く営巣地に戻れるようになりました。
英国では繁殖数が減り、北部のアウター・ヘブリディーズ諸島とスコットランド本土の北部に限られていました。しかし20世紀に野生化した個体群が各地に生まれ、イングランドの大部分に再び広がりました。観測が集中するのは3月から4月ごろです。

行動と暮らし
社交性が高く、家族単位の小さな群れから数千羽にもなる大きな群れまで見られます。長距離を移動するときはV字形の編隊で飛びます。地上を速く走ることもでき、天敵を素早くかわします。
食べ物の栄養が低いため、1日の多くの時間を採食に費やします。植物は消化管を速く通り抜け、こまめに排出します。
つがいは長期にわたる一夫一妻の関係を基本とします。多くのつがいは生涯続きますが、5〜8%のつがいは別れて別の相手と組み直します。同性のつがいも14〜20%ほど見られ、雄同士のつがいは絆が強く、群れで高い地位につくこともあります。その役割は群れの守り手だという推測もあります。
雛がかえると、家族どうしが寄り集まって群れを作ることがあります。集団で捕食者を追い払い、雛を守ります。成鳥は雛が巣立つ約1か月前に風切羽と尾羽を換羽し、その間は飛べなくなります。幼鳥も同じ換羽を行い、飛べない時期には安全な決まった場所に移動します。
コミュニケーション
ハイイロガンは、視覚、接触、音声、化学的な手がかりの4つの経路でやり取りします。
鳴き声は大きく、地上でも飛行中でも出します。基本となるのは「アーング、ウング、ウング」と響く声で、状況に応じて細かく変化します。個体は声によって既知の仲間を見分けられるとされます。群れ全体の声は、猟犬の吠え声に似ているといわれます。ヒナはかすかに鳴き、成鳥は脅かされたり怒ったりすると「シーッ」と息を吐くような声を出します。
天敵を追い払った雄は、つがいの元に戻って「勝利の鳴き声」を発します。首を地面と平行に前へ伸ばし、低い鳴き声を続けて出す行動です。つがいの相手や、まだ飛べない雛もこれに応えます。
録音
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食性と栄養
ハイイロガンは主に草を食べる草食性で、イネ科の草が食べ物の中心です。若くて成長中の短い草ほど栄養価が高く、牧草地で羊や牛と並んで採食する姿も見られます。湿地植物の根茎や根も食べます。
冬には草や葉に加えて、刈り取り後の畑に落ちた穀物を拾います。夜間には越冬作物も食べ、オート麦、小麦、大麦、ソバ、レンズマメ、エンドウなどが対象になります。根菜類も食べます。1940年代ごろからは、耕された畑でジャガイモを探すようになりました。その前の1920年代には、ほかのガンがジャガイモを食べ始めていました。
水辺では、ウキクサ類やドジョウツナギなどの水生植物、海岸に生えるカヤツリグサ科の植物の塊茎を食べます。ドングリや果実も食べ、沿岸ではアマモ類も口にします。動物食としては、小型の魚、両生類、甲殻類、軟体動物、昆虫を食べます。
営巣と繁殖
繁殖期は春です。アイスランドでは5月初め、スコットランドでは4月下旬から始まり、中部ヨーロッパではやや早く始まります。繁殖は一夫一妻のつがいで行われます。
巣は地上のヒースや葦、草むらに作ります。浮いた植物の上や、高い場所、沼地、小島に作ることもあり、卵と雛を天敵から守ります。巣材は葦の切れ端、ヒースの小枝、草、コケで、小さな羽毛と綿毛を混ぜて組みます。
一腹の卵数は3〜12個ですが、普通は4〜6個です。卵はクリーム色で、大きさは約8.5×5.8cmです。卵はほぼ連日で産まれ、最後の卵が産まれてから抱卵が始まります。抱卵は雌だけが行い、27〜28日かかります。その間、雄は巣の近くで見張りを続けます。
ヒナは早成性で、孵化後すぐに巣を離れることができます。孵化した雛は、体が乾くまで巣にとどまることが多いです。両親がともに世話をし、ヒナは餌をついばむことを覚えます。約8〜9週間で飛べるようになり、独立します。性成熟は2〜3年で、多くは3歳で迎えます。
個体数と生態的役割
卵、雛、成鳥は、キツネやオオカミなどの食肉類、オジロワシやイヌワシなどの猛禽類、カラス類などに狙われます。コウノトリ類にも捕食されます。
かつては西ヨーロッパに多く生息していましたが、湿地の排水によって数を大きく減らしました。その後は増加に転じ、数万羽の群れも見られるようになりました。ノルウェーでは1995〜2015年に個体数が3〜5倍に増えたと推定されています。オークニー諸島では、繁殖つがいが300組から2009年には1万組、2019年には6万4,000組へ増えました。
草食性の大型の鳥として、草地や農地の植生に大きな影響を与えます。
家畜化と人との歴史
ハイイロガンは数千年前から飼われ、人によって肉と羽毛を得るために育てられてきました。今日の家畜ガチョウのほとんどの品種は、この種を祖先としています。
肉は味が濃く、食用として飼育されてきました。綿毛は枕や布団の詰め物、軽量のマットレス、アウトドア用の衣類や寝袋、断熱材などに利用されてきました。
家畜ガチョウは現在も食肉と羽毛の供給源として、世界各地で飼われています。
保全と脅威
国際自然保護連合のレッドリストでは「低懸念」に分類されています。個体数が多く、絶滅の危険が小さいと評価されています。
過去には、湿地の排水によって西ヨーロッパで数が大きく減りました。現在は増加し、数万羽の群れも見られます。一方で、農作物への被害が問題になっています。ノルウェーでは農地での採食による農家の被害が増えています。オークニー諸島では作物被害が大きいため、狩猟期間が一年の大半に及びます。
米国の渡り鳥保護法では特別な指定はありません。米国の連邦リストでも特別な地位はなく、絶滅危惧種の国際取引を規制する条約でも特別な規制はありません。
写真
写真の提供元はvia iNaturalist, licensed under CC0 1.0.、by s_schizik via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.、by Bernd De Bosscher via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.、by Coralie via iNaturalist, licensed under CC BY 4.0.です。各写真に撮影者のクレジットを記載しています。
生態と分類
分類
- 門
- Chordata
- 綱
- Aves
- 目
- Anseriformes
- 科
- Anatidae
- 属
- Anser
- 種
- Anser anser
出典
- GBIF Species names and classification
- iNaturalist Photos
- Wikidata Common names and conservation status
- Wikipedia Summary extract
- Xeno-canto Audio recordings
- Animal Diversity Web Animal habitat, behavior and diet
- AnAge Longevity
- AVONET Bird mass, habitat, migration, diet and range size
- GloBI What it eats, what eats it, parasites and pollinators
- trophiCH
- Wardeh et al. 2015 (EID2)
- HWML Parasite Collection
- TETRA-EU


