タイセイヨウサケは、川で生まれ、海で成長し、産卵のために生まれた川へ戻ってくる魚です。北大西洋とそこに注ぐ河川に分布し、ほとんどの個体群がこの回遊をおこないます。
サケ科に属する条鰭類で、サケ属の中では最大の種です。体長は最大で1メートルに達し、サケ科ではシベリアイトウとキングサーモンに次ぐ大きさです。体重は最大でとされ、寿命は最長でほどとされています。
国際自然保護連合(IUCN)の評価は近危急種です。川と海を行き来する一生は、河川環境の変化や海での生存率の影響を強く受けるため、この魚を理解するうえで欠かせない特徴になっています。
識別と外見
成魚は銀青色の光沢をもち、体の側面の上部に黒い斑点が多く見られます。尾びれには斑点がないことが多いので、この点が成魚の見分けやすい特徴です。
2年間海で過ごした個体は、体長71〜76cm、体重3.6〜5.4kg程度になります。4回以上の冬を海で過ごした個体や、産卵を繰り返した個体はさらに大きくなることがあります。
若い個体は成魚とは大きく異なる色をしています。淡水にいる間は青と赤の斑点が目立ち、体の側面には大きな灰色の斑紋があります。繁殖期になると、オスは体色にわずかに緑や赤みが出て、頭の形が細長くなり、下顎の先に鉤状の突起(キプ)が現れます。
体は紡錘形で、歯は発達しています。背びれと胸びれ、腹びれ、尻びれ、尾びれの縁は黒く縁取られ、脂びれだけは例外です。
分布と生息地
タイセイヨウサケの自然な繁殖地は、ヨーロッパの河川と北米北東岸の河川です。ヨーロッパでは南はスペイン、北東はロシアのペチョラ川まで見られます。北極圏に近いスヴァールバル諸島にも分布を広げており、気候の温暖化が背景にあるとされています。
北米では、ハドソン川の支流のハウサトニック川とナウガテック川が、アメリカ合衆国で最も南に位置する遡上の場所でした。現在のニュージャージー州の池では、約1万年前の鱗から本種の存在が確認されています。
淡水での生活は、生まれた川の条件に強く左右されます。大きく冷たく、礫底の広い川が幼い時期に欠かせません。海に出ると、水温4〜12°Cの海域を好むとされ、ほとんどの個体は生まれた川へ戻ります。
北米では、18世紀から19世紀にかけて毛皮貿易、森林伐採、ダムや水車の建設、農業によって生息環境が大きく損なわれました。その結果、北米の河川で失われた遡上群は1850年までに半数以上になったとされています。

行動と暮らし
稚魚は群れで泳ぎ、海に出てからも異なる川の個体が同じ海域で一緒に過ごします。においや聴覚、味覚に優れ、体の表面で波を感じることで危険を察知します。
本種は、川で生まれた時の水のにおいを幼魚のころに覚え、成魚になってから産卵のために生まれた川へ戻ります。どのように帰り道を見つけているかは完全には解明されていませんが、生まれた川の特有のにおいが最も有力な手がかりだと考えられています。
稚魚(パー)は、なわばりを守るとされてきましたが、なわばりを守る証拠は十分ではありません。互いに攻撃することはありますが、社会的な序列はまだはっきりしていません。河口を出るときには群れをつくることが多いとされています。
成魚は、他のサケ類に比べて攻撃的だとされ、ほかの魚を襲う傾向が強いと考えられています。
コミュニケーション
本種は、におい、音、触覚を使って周囲の情報を得ます。においは、生まれた川を見つけ出すうえで特に重要な感覚です。
幼魚は、川で生まれた時のにおいを覚えます。成魚はその記憶をもとに、産卵のために同じ川へ戻ります。このにおいは、回遊の方向を決める重要な信号になります。
音や水の振動は、危険の察知や周囲の状況の把握に使われます。体の表面で波を感じる能力も、餌や危険を見つける助けになります。
狩りと食性
稚魚は、川でおもに水生昆虫の幼虫を食べます。ブユ、カワゲラ、トビケラ、ユスリカの幼虫などが代表的です。夏の終わりには陸生の昆虫も重要な餌になります。
海に出ると、餌は大きく変わります。若い個体は、オキアミ類などのプランクトンを食べます。成長した個体は、ニシンやシシャモ、カラフトシシャモ、キュウリウオ、小型のサバ、小型のタラなどの魚を食べます。
海では、獲物の群れを探して食べ、大きく育つための栄養を蓄えます。獲物を見つける感覚と素早い動きが、この成長を支えています。
産卵のために川へ戻る前には餌を食べなくなります。淡水に入った後は、釣り針に付けた疑似餌に反応する場合があっても、ほとんど餌を食べません。
繁殖と生活史
産卵は10月から11月にかけておこなわれ、最も盛んになるのは10月下旬です。産卵床は、メスが選んだ礫底の瀬に作られます。メスは体を横にして尾びれを強く振り、川底の砂利をくぼませて産卵床を掘ります。
メスは産卵床の中で卵を産み、オスがその上で精子をかけて受精させます。メスは砂利をかぶせて卵を守ります。1回の産卵で、体重1ポンドあたり700〜800個の卵を産むとされています。卵は淡いオレンジ色で大きく球形です。
産卵を終えた個体はケルトと呼ばれます。消耗しきった個体の多くは死にますが、2回以上産卵する個体もいます。ただし、繰り返して産卵する個体は多数派ではありません。
卵は通常4月に孵化しますが、稚魚は卵黄を吸収し終えるまで砂利の中にとどまり、翌年の5月か6月に外に出てきます。孵化直後の仔魚は、約65mmになるまで流れの速い場所にいます。その後は成長が遅いパーとなり、体長12〜15cmになるとスモルトと呼ばれ、海へ下ります。海では急速に成長します。
海に出てから1年で川へ戻る個体もいれば、2年海で過ごす個体もいます。また、年齢や遡上のタイミングには幅があり、同じ個体群の中でも多様です。この多様性は、川の流量が年によって大きく変わる環境で、一部の個体が成功する仕組みになっていると考えられています。
トラウトの仲間と同じ川で暮らす場合、ブラウントラウトと交雑することがあります。スペイン北部の川では、交雑個体が見つかっています。
個体数と生態的役割
本種の生活史の大半は海で過ごされるため、稚魚期の生き残りは川の環境に左右されます。また、卵と稚魚の生き残りは、生息地の質によって大きく変わります。
淡水での期間は、川の場所によって2〜8年と幅があります。南部の川では1年で海へ下りますが、スコットランドの川や北方の川ではそれより長く、カナダのウンガヴァ湾ではスモルトが8歳になる例もあります。
海へ下る前の稚魚は、マスの仲間に大量に捕食されます。その他の魚や鳥も捕食者になります。成長して体重が約250gを超えると、鳥や多くの魚に食べられる心配は小さくなりますが、アザラシには今も捕食されます。
保全と脅威
IUCNはタイセイヨウサケを近危急種と評価しています。地域ごとの評価では、ヨーロッパの個体群は絶滅のおそれがある状態とされ、世界的にも同様の状態とみなされています。
主な脅威は、過剰な漁獲と生息地の変化です。ダムや堰が遡上を妨げ、森林伐採や土壌侵食も川の環境を悪化させてきました。1950年代以降はグリーンランドやフェロー諸島の沖で大規模な流し網漁がおこなわれ、1979年から1990年の間に漁獲量は400万から70万に減りました。
1990年頃からは、北大西洋西部で海での死亡率が2倍以上になりました。これらの要因が重なり、北米の遡上数は長期的に低下しています。
一方で、2008年以降は北米の一部の河川で遡上数が増える例も見られました。保全の取り組みとして、ヨーロッパや北米で生息地の回復が進められています。オンタリオ州では2006年に大規模な放流事業が始まり、600万尾を超える稚魚が放流されています。
文化的意義
タイセイヨウサケは、文化や神話の中で特別な位置を占めてきた魚です。アイルランドの神話では、最も尊ばれる魚とされ、アイルランド語では「知恵のサケ(An Bradán Feasa)」と呼ばれています。
北西海岸の先住民の一部では、サケが神聖な存在とされています。古くから、力や知恵、精神性と結びつけられてきたことも知られています。
人の利用の面では、釣り愛好家にとって最も価値の高い魚のひとつです。食用としても高く評価され、新鮮なものや缶詰、冷凍品として広く流通しています。今では、市場に出回るほとんどは養殖の個体です。
豆知識
- 1925年にノルウェーで捕らえられた個体は体長160.65cmで、知られている中で最も長いタイセイヨウサケです。
- 1960年にスコットランドのホープ川の河口で捕らえられた個体は、体重49.44kgでした。
- 作家のヘンリー・ウィリアムソンは、このサケを主人公にした小説『Salar the Salmon』を書いています。
写真
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生態と分類
分類
- 門
- Chordata
- 目
- Salmoniformes
- 科
- Salmonidae
- 属
- Salmo
- 種
- Salmo salar
出典
- GBIF Species names and classification
- iNaturalist Photos
- Wikidata Common names and conservation status
- Wikipedia Summary extract
- Animal Diversity Web Animal habitat, behavior and diet
- AnAge Longevity



