ヨーロッパアマガエル(Hyla arborea)は、かつてヨーロッパから北アフリカ、アジアにまで広く分布する一種と考えられていましたが、遺伝子解析の結果、複数の種に分割されることが判明し、本来のヨーロッパアマガエルの分布はフランスからポーランド、ギリシャにかけてのヨーロッパ本土に限られることが分かりました。
本種は両生綱無尾目に属する小型のカエルで、湿地や草地、庭園、森林の縁など多様な環境に生息しています。IUCNのレッドリストでは低危険種(Least Concern)に分類されていますが、個体数は減少傾向にあると評価されています。
気温や湿度、さらには「気分」によって体色を変える能力や、木に登るための吸盤状の指先など、独特な特徴を持つ点も見逃せません。
識別と外見
指先にある吸盤状の趾盤(しばん)が、本種を最も特徴づける識別点です。この吸盤を使って木や生け垂れ、垣根などをよじ登ることができます。体長は雄が32〜43mm、雌が40〜50mmで、雌の方がやや大きく、体は細長く、脚は長めです。
背面の皮膚は滑らかで、緑色、灰色、または黄褐色になり、気温や湿度、個体の状態によって変化します。腹面の皮膚は顆粒状で白っぽく、目から脚の付け根まで伸びる暗褐色の側線によって背面と腹面の色が明確に分けられています。
雌雄の違いも分かりやすく、雌は喉が白いのに対し、雄は喉が金褐色で、大きく折り重なった鳴嚱(めいのう)を持っています。
頭は丸みを帯び、口先は強く下がった形をしており、瞳孔は横長の楕円形で、鼓膜もはっきりと見て取れます。後脚は前脚よりもはるかに大きく強く、素早いジャンプを可能にしています。
分布と生息地
本種複合体は、イギリスを除くヨーロッパのほぼ全域から北西アフリカ、温帯アジアにかけて分布し、アルバニア、フランス、ドイツ、ギリシャ、ポーランドなど非常に多くの国で自生が確認されています。イギリスでは移入種として扱われ、一度定着したものの現在は絶滅したと考えられています。
生息地は湿地、湿った草地、ヨシ原、公園、庭園、ブドウ園、果樹園、河岸、湖岸、湿った森林や乾燥した森林など多岐にわたります。暗く密生した森林は避ける傾向があり、一定期間の乾燥にも耐えられるため、乾燥した環境で見つかることもあります。
GBIFの月別観測記録を見ると、4月に26,504件、5月には47,843件と急増し、6月(17,804件)、7月(10,997件)、8月(12,527件)と続いた後、9月以降は徐々に減少し、11月(565件)、12月(124件)にはほとんど観測されなくなります。これは繁殖期にあたる春から初夏にかけて活動が活発になることを示していますが、あくまで観察記録の多寡であり、個体数や生息範囲の全体を示すものではありません。

行動と暮らし
ヨーロッパアマガエルは天候の変化に敏感に反応することで知られ、雨が近づくと鳴き始める習性から、かつては生きた気圧計として利用されていました。体色は亜種や気温、湿度、個体の状態によって鮮やかな緑から オリーブ色、灰色、褐色、黄色まで変化します。
餌となる小型の節足動物には、クモ、ハエ、甲虫、チョウ、滑らかな幼虫などがあり、遠くまで跳ぶ能力を活かして飛翔中の昆虫を捕らえることができます。この飛翔性昆虫が食事の大部分を占めています。
冬期には壁の隙間や地下室、岩の下、植物の株の下、落ち葉や堆肥の山に埋まって越冬します。この隠れた越冬行動は、冬季にほとんど観察記録が得られない理由の一つと考えられます。
繁殖と生活史
繁殖期は3月下旬から6月にかけてで、湖沼や池、沼地、貯水池、時には水たまりのような滞水域で行われます。春の雨の後、雄は低い植物の上や浅い水辺から鳴き声を上げて雌を呼び、繁殖池へ移動する間も鳴き続けます。雄は同じ繁殖期の中でも繁殖池を変えることがよくあります。
卵はクルミ大の塊として、1回に800〜1000個ほど産まれます。卵1個の直径は約1.5mmです。
産卵から10〜14日で孵化し、その後オタマジャクシは約3か月かけて変態し、幼体になります。変態のピークは7月下旬から8月上旬にかけて訪れます。
生涯については、記録によって15年まで生きるとされる一方、22年に達するという記録もあり、資料によって多少の差があります。
保全と脅威
IUCNのレッドリストでは低危険種(Least Concern)に分類されており、その分布の広さと推定される個体数の多さから、より危険度の高い分類基準を満たすほどの急速な減少は起きていないと評価されています。ただし、IUCNの評価では個体数の傾向は減少していると示されています。
主な脅威としては、生息地の分断と破壊、湿地の汚染が挙げられます。また、マスなど魚類による捕食も深刻で、池にマスが導入された地域では個体数が大きく減少したことが報告されています。さらに、ペット取引のための捕獲や気候変動、増加するUVB放射、農薬や肥料などの汚染物質も個体数減少の要因とされています。
1980年代から始まった生息地の復元は個体数の増加に成功しており、新しい繁殖池の造成や、繁殖地をつなぐ「生息地の回廊」の整備、再導入といった取り組みも進められています。これらの対策はスウェーデン、ラトビア、デンマークで成果を上げており、生息地の保護が個体群保全において最も重要な手段であるとされています。
保全状況
- LC
- NT
- VU
- EN
- CR
軽度懸念
文化的意義
属名の Hyla はギリシャ語の「hyle(木、森)」に由来します。ギリシャ神話では、ヒュラスはヘラクレスの若き仲間として知られ、その美しさと、水を汲みに行った際に姿を消したという悲劇的な逸話で知られています。この名前は森や自然、若さの美しさを想起させます。
なお、属名 Hyla は文法上、女性名詞として扱われています。
豆知識
- 配偶者選択は通常メスが行うものとされますが、本種では雄同士の競争(雄間競争)も存在し、鳴き声の質が配偶相手としての適性を示す指標になっている可能性があります。
- 分子系統解析では、Hyla arborea は Hyla annectans や Hyla savignyi とともにユーラシア系の一群を形成し、北米に生息する11種の Hyla 属や、日本に分布する Hyla japonica を含む大きな系統群の姉妹群にあたるとされています。
生態
生息地
- 湿地
- 森林
- 淡水
- 草原
行動
- 捕食者
- 冬眠
- 樹上性
食性
- 食虫性



